「食」と「農」のエッセイ

日本ペンクラブ会員の著名人によるリレーエッセイ

第47回 きむらゆういちさん
ごはんのみりょく

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 ごはんって食べ物はすごい!肉、魚、野菜、ありとあらゆるものと相性が良く、相手の味を引き立て、その上おにぎりのように一人でも自立している。
 そんなごはんのようにボクはなりたい。というのはともかく、その中でも特にボクが好きな組み合わせは“卵かけごはん”だ。更にそれに1日経ったトンカツを組み合わせると、最高だ。
 前に「一番好きな食べ物は何ですか?」と聞かれた時「1日経ったトンカツと卵かけごはん。」と答えて変な顔をされたことがある。確かに冷めたトンカツを一番好きというのは理解しがたいかとも思うが、それには訳がある。
 中学高校と母子家庭だった我が家の夕食は、母の帰宅が遅いため、隣のおばさんが買ってきてくれたトンカツ一枚を一人で食べていた。
 翌日の朝食も母はまだ寝ているため、昨夜のトンカツを2切れ残しておいて、それを卵かけごはんで食べる。育ち盛りのボクは限られたおかずでどれだけごはんをかき込めるかが勝負だ。
 おかずと言っても2切れのトンカツなのだが、1日経つと脂身が白くて歯応えがシコシコして前日とは違った味わいになる。
 さらに買ってきてくれるトンカツは一番安いため脂身が多い。ということは2切れのトンカツは肉と脂身と衣という3つの味が味わえるのだ。
 これしかないからと言えばそれまでだが、ボクは何年も毎日、この食生活を続けた。
 普通、だから嫌いになったという方も多いだろうが、ボクは逆に大好きになったという訳である。
 他もものぐさな母は遠足や運動会には必ずおいなりさんを作る。
 それも一度に50個くらい作る。なので前日の夕食も当日の朝食ももちろんお弁当もそしてその日の夕食も、おいなりさんになる。
 それではさすがにおいなりさんが嫌いになるだろうって?いや大好きになったのである。
 どんな環境でもそれが好きになってしまえば幸せだ。今でも食卓にトンカツが並ぶと、いそいそと卵を取りに冷蔵庫に向かってしまうボクがいる。
 もちろん、それも組み合わせにごはんだけは欠かすことができない。

イラスト:今井夏子

きむらゆういち

東京都生まれ。造形教育の指導、テレビ幼児番組のアイディアブレーンなどを経て、絵本・童話作家に。代表作に『あかちゃんのあそびえほん』シリーズ(偕成社)、『あらしのよるに』(講談社)など。著書は海外・国内合わせて1000冊をこえる。

きむらゆういち
「あかちゃんのあそびえほん16てをつなぐのだいすき」
「あかちゃんのあそびえほん16てをつなぐのだいすき」
偕成社
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