【神奈川県南足柄市】

バランスのとれた味わいと豊かな香り 足柄(あしがら)

文◎編集部 撮影◎磯野博正

神奈川県西部に位置する丹沢・箱根山麓一帯で生産される「足柄茶」は、関東大震災(1923年)の震災復興策として栽培が始まりました。
お茶栽培に適した気候風土と、生産から製造、販売まで一貫システム化による品質の高さで、「かながわブランド」や「神奈川名産100選」などに登録され、神奈川県内を中心に親しまれています。
目に鮮やかな緑の茶畑が斜面に広がる産地を訪ねました。

収穫適期を見極め高品質なお茶に

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「一年間丹精込めて育てたお茶です。渋味と甘味のバランスがよいのでたくさんの人に飲んでもらいたいです」と、生産者の柏井良一さん
 丹沢・箱根山麓一帯は山間部ならではの昼夜の温度差に加え、冬場の季節風「丹沢おろし」など気候風土がお茶栽培に適しており、昭和40年代(1965年~)には一大茶産地が形成されました。
「この辺りは春先に霧が発生しやすいんです。お茶にはうま味成分のテアニンが含まれていますが、テアニンは日光に当たると渋味成分のカテキンに変化します。霧が日光を適度に遮ることでそれを制御でき、渋味と甘味のバランスがよいお茶となります。主な栽培品種は、国内で一番生産量の多い『やぶきた』を中心に、早生でうま味成分の強い『さえみどり』、晩生ですっきりした香味の『おくみどり』などがあります」と説明してくれた、株式会社神奈川県農協茶業センター 部長の加藤 洋さん。

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二人刈りの収穫機を使って収穫。最低でも4人の人出が必要です
 一番茶の収穫が始まったという、生産者の柏井良一さんの茶畑に案内していただきました。
「うちは1972~1973年頃に先代がお茶の栽培を始め、私が継いでから柑橘畑を茶畑に転化させながら少しずつ栽培面積を広げてきました。今は約70アールの面積で『やぶきた』と『さえみどり』を栽培しています。一番茶の収穫はGW明け頃までで終了。6月中~下旬頃から二番茶の収穫となりますが、うちでは一番茶のみの収穫です」と、柏井さん。
 新芽は「一芯五葉」が収穫適期といわれています。葉が一枚開くのに4日かかるので、新芽が出てから20日後辺りを収穫の目安とします。

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先端に芽があり、その下の互い違いに付く5枚の葉の部分を「一芯五葉」といいます
 「一番心配なのが遅霜です。新芽が出てから霜が降りると枯れてしまうので、茶畑に送風機を設置して5℃以下にならないよう高い位置の温かい空気を対流させて防ぎます。収穫は曇天でそれほど気温が高くない日を選んで行います。雨で茶葉がぬれたり、晴天で気温が高くなったりすると茶葉が傷みやすいため、新芽の状態・気候や天気などをみて、最適な摘採時期を見極めることが大変です」と、柏井さん。
 足柄茶の生産者は肥培管理や荒茶工場の管理・連携などによるトレーサビリティなど、GAP(農業生産工程管理)に取り組み、栽培暦に則った栽培や環境保全などを心がけ、生産者の高齢化や後継者不足の中で生産者同士の協力体制を整えて安全安心な栽培を行っています。

荒茶に加工後、茶業センターに一元集荷

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収穫した茶葉はすぐに荒茶工場に持ち込まれ、蒸して発酵を止めます
 収穫した茶葉はすぐに荒茶工場に運び、蒸して、揉みながら水分を飛ばし、乾燥させて「荒茶」に仕上げます。
「茶葉は刈り取った直後から発酵が進むので、早く蒸して発酵を止め、品質低下を防ぐことが大事です。茶葉の生育具合は畑ごとに異なるため、その日の収穫量を見定めて工場の受け入れ態勢を整えます。一番茶の収穫は短期集中で、最盛期には夜通し工場を動かしていることもあります」と、茶業センターの加藤さん。
 こうして神奈川県下に22ヵ所ある荒茶工場で加工された茶葉は、茶業センターに一元集荷されます。
「荒茶の段階では茎や粉も混じり長さも不揃いです。当センターでは茶葉の形状、香り、水色(すいしょく)、味などを見極めてランク付けをし、お茶の風味と香りの決め手となる火入れ(焙煎)をして製品に仕上げる二次加工をします。品質ごとに分けて製茶し、消費者ニーズを踏まえてブレンドを行い、県内の直売所やスーパーなどへ直接販売しています」とのこと。産地のお茶を一元管理することで、安定した高品質のブランド茶となっています。
 湯飲みに注ぎ入れると、浅蒸し茶ならではの薄緑の色合いが鮮やか。ふくよかな香り、やわらかな甘味、アクセントのような苦味。待ちに待った新茶の季節到来、縁起物の一番茶をどうぞお楽しみください。

(取材:2022年4月下旬)

●(株)神奈川県農協茶業センター
【足柄茶】生産概要
生産者:約294名
栽培面積:約114ヘクタール
出荷量:約101トン(2021年度)
主な出荷先:神奈川県内
購入はこちら

「最近は急須のないご家庭も多いので、ティーバッグなどさまざまな商品を揃えています」と、(株)神奈川県農協茶業センターの加藤 洋さん。商品はオンラインショップでも購入可能

2023.04更新

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