生産者全体で一斉に適期収穫
群馬県は冬の長い日照時間とからっ風、火山灰土壌など、小麦の栽培に適した環境があり、古くから稲作とともに小麦の栽培が行われてきました。加えて、養蚕から小麦への転換も進み、全国的にも大きな産地となりました。
「今では他の産地でも二毛作を始めているところがありますが、群馬は昔から二毛作で栽培してきました」と、JA前橋市販売部農産販売課の金子賢次課長。
「うどんなどに使う中力粉の品種を中心に、ニーズに合わせてさまざまな品種を県で育成しています。
例えば“さとのそら”は菓子用としても使え、汎用性が高いです。“つるぴかり”は粘りが強くもちもちのうどんに、“きぬの波”は滑らかでコシのあるうどんになります。また、パンや中華麺に使う高タンパクの“ゆめかおり”は地元の学校給食にも使われています」と、金子課長。
収穫は6月10日頃から始まり、6月下旬まで。品種ごとに収穫の時期をずらし、管内の生産者全員が同じタイミングで収穫していきます。
「品種ごとにJAのライスセンター(共同乾燥調製施設)で集荷、乾燥、貯蔵をします。すべての畑の集荷、乾燥が終わったら、次の品種の収穫を始めます」と話す金子課長ですが、収穫時期はちょうど梅雨にあたるため、適期の見極めが難しいとのこと。雨が降って収穫が遅れると、後に続く品種の収穫スケジュールも後ろ倒しになり、それにより麦が過熟になると品質が低下してしまいます。
「高い品質を保つために、天候を見ながら生産者とライスセンターがしっかり連携して、臨機応変に動けるスケジュール管理をすることが最も重要です」。
ライスセンターの乾燥作業は24時間体制で稼働。多いときは1日で200〜300トンの集荷があります。
先進技術を利用して品質、栽培面積をアップ
収穫は地域で一斉に行われます。
「小麦の後はすぐに田植えの準備となるため、遅れると米づくりにも影響してしまいます。常に時間とタイミングとの闘いです」と話す、農事組合法人二之宮の、岡 賢一代表理事。
農事組合法人二之宮は123名の生産者で構成され、小麦を約67ヘクタール栽培しています。米、麦の二毛作をメインにたまねぎ、長ねぎ、キャベツを栽培。集落で営農組合を組織することによって、年間の作業や管理体制が確立され、担い手確保や品質向上への取り組みなどが実現できます。
「よい小麦を育てるには、堆肥などを使った土づくり、そして麦踏みで強い茎をつくることが大切」と、岡代表理事。
10月に米の収穫が終わると、小麦の土づくりなどの準備をし、11月中旬から品種ごとに時期をずらして種まきをします。
「12月下旬頃にでき始める幼穂(ようすい)をトラクターのローラーで踏むと、茎の分けつが促進されて穂数が増え、冬場の霜柱に負けない耐寒力のある強い麦になります」と話す岡代表理事。その後も2月、3月上旬と、麦踏みを重ね、大きくて倒伏しない丈夫な麦を育てます。
農事組合法人二之宮では、GPS搭載のトラクターや自前のドローンでの農薬散布、モバイルシステムを使った作業データの蓄積など、先進技術を使ったスマート農業も積極的に導入を進めています。
「収穫量、水分量、タンパク含有量などをデータ化できる収量コンバインを導入して、翌年以降の土づくりや栽培管理に活用しています」とのこと。
パンの需要が増えているため、パン用の小麦“ゆめかおり”の栽培も増やしていますが、「うどんやまんじゅうなどを作り、日常的に食べていた食文化を残していきたい。手作りのうどんはもちもちしておいしいです」と、岡代表理事。
うどん作りは生地を踏んでコシを出すことが大切。国産小麦を使って、自家製手打ちうどんを楽しんでみてはいかがですか?
(取材:2022年6月中旬)
●JA前橋市
【小麦】生産概要
生産者:70名(うち農事組合法人37軒)
栽培面積:約1197ヘクタール
出荷量:約5615トン(2022年実績)