私を指して、「渡世人」と呼ぶ人がいる。
俳優、脚本家、作家、競輪評論家、TV情報番組キャスター、人権や環境分野での活動家、国会議員等々、次から次へと異分野を飛び歩く姿を、あてどなく彷徨する「木枯し紋次郎」に例えた皮肉なのかも知れぬ。
こちらには内的必然性と一貫性があって蛇行しているのだが、その弁解は無粋なのでやめておこう。
さてこれだけ仕事が広範囲に及ぶと、当然訪れる地域が広がる。若い時の留学、取材旅行、数々の海外視察を数えれば、数十カ国にのぼる。各国の首都級都市には、世界共通のグローバルな設備を整えたホテル群がある。その中にはレストランも数種類あり、三食選んで食べることができる。
問題は地方都市である。ここでは、地産地消の原理主義が君臨している。例の一つに、イタリアのシチリア島を取り上げてみよう。私はこの島の最大の都市パレルモに陣取り、TVのドキュメンタリーを撮ったことがある。風光明媚な観光地だが、テーマは「マフィア」だった。映画「ゴッド・ファーザー」の舞台にもなったマフィア発祥の地。だが、ここで話したいのはそのことではない。
料理を頼むと、前菜として山盛りのスパゲティーがついてくる。これが実に美味しい。しかし三日も食べると飽きが来る。そこで、街のレストランを探してみたが、和食どころか、中華もインド料理もない。ここで、私は重大な事実に気がついた。
「イタリア人は、三食ともイタリア料理しか食べない!」
よく考えると、他の国々だって似たようなものだ。日本人の食だけが違う。朝、パンを食べ、昼はスパゲティーかラーメン、夜は和食かステーキなどと、世界中のメニューを食いまくってる。
それでいて、「食料の自給率は四〇%以下だ」、「気候変動や環境破壊に対応できない」などと、イタズラに危機感を煽るのは、どういう了見なのか。あり余る米を目の前にして、何も思いつかないのだろうか?
中村敦夫(なかむら あつお)
1940年、東京生まれ。東京外国語大学中退。1972年放映の『木枯し紋次郎』が空前の大ブームに。その後、小説『チェンマイの首』で作家へ。1984年、TV情報番組『中村敦夫の地球発22時』で報道キャスター。1998年、参議院議員当選。2004年、環境政党を立ち上げるが敗退。2007年から同志社大学講師を3年勤め、現日本ペンクラブ理事。
<公式HP>
https://www.monjiro.org/