徳島県にお住まいの釣り好きの知人から、アマゴをいただいた(徳島では「アメゴ」というらしい)。
拙宅には魚を焼くグリルがないのだが、「フライパンでバター焼きにしてもおいしいですよ」とのこと。はらわたをきれいに抜いた状態で送ってくださったので、昼ご飯にしようと、四匹のアマゴに塩こしょうを振って、じっくりとバターで焼く。
山形の日本酒もあったので、ちびちびやりながらアマゴのバター焼きを食べる(昼から飲酒)。お、おいしいーっ。アマゴのほのかな甘みと香ばしさを、日本酒のやわらかな甘さとすっきり感が包みこんで、大地と川の完璧なコラボや! 私の言語化能力の問題でダメな食レポみたいになってるが、休日のぼやけた頭が一気に目を覚ましたぐらい、驚きの美味&滋味だ。
夢中で二匹をたいらげたところで、覚醒した私の頭が囁きかけてきた。これ、リゾットの具にしても最高なのでは?
まだ洗っていなかったフライパンで、三重県在住の知人が育てたお米をざっと炒める(あらゆる知人から食材をいただきすぎである)。残りのアマゴの身をほぐし、生のトマトも握りつぶして投入。和風リゾットがいいかなと、目分量の水を入れるついでに顆粒出汁を振りかけ(手抜き)、しかしちょっとコクも欲しいかもと、チーズにもご参加願う。
どの方向を目指しているのかわからぬ適当料理になってしまったが、天才が作ったとしか思えぬリゾットができあがった。天才なのはむろん、私ではなく食材だ。バターとチーズの芳醇な味わい、トマトの控えめな酸味、お米の奥深き甘さと食感が、アマゴとの抜群のハーモニーを奏でている……! ありがとう、植物と動物! 太陽と水と土! と、感謝の対象が壮大になるぐらいおいしかった。ますます酒が進む。
山、川、海は、隔絶して存在するのではなく、水によってつながっている。おいしい水のおかげで、おいしい作物も、魚も、牛や豚や鶏も育つし、酒もできる。かれらがおいしい料理となって出会うとき、山から海へ、海から山へとめぐりつづけるサイクルが、食卓のうえで凝縮され、再現される。不思議でありがたいことだなあと、アマゴトマトリゾットと酒を堪能しつつ、「命を食べて、生命活動を維持する」循環に思いを馳せたのだった。
三浦しをん(みうら しをん)
小説家。1976 年、東京生まれ。2000 年『格闘する者に○』でデビュー。2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012 年『舟を編む』で本屋大賞受賞。ほかの小説に『風が強く吹いている』『ののはな通信』など多数。最新刊はエッセイ集『しんがりで寝ています』。