じゃがいも栽培の原点【種馬鈴しょ】

品質や収穫量を左右する
じゃがいも生産の要、種いもづくり

じゃがいもは17世紀初めにジャカルタから来たので「ジャガタライモ」と呼ばれ、やがてそれが「じゃがいも」に。行政や生産現場では、いもの形が馬の首につける鈴に似ていたことから「馬鈴しょ」と呼ばれています(以下馬鈴しょ)。
馬鈴しょは種いもの検疫が義務付けられ、国産の馬鈴しょが安定供給されているのは、この検疫制度があってこそ。生産の要、種馬鈴しょを探ります。

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 馬鈴しょは、種馬鈴しょ(種いも)を植えつけて栽培します。種子で増殖する稲は増殖率が100倍以上なのに対して、馬鈴しょは約10倍と低く、また、種いもが病害に感染していると、収穫量が激減するなど大きなリスクがあります。特にウイルス病は種いもを介してまん延するので、防止するためには病気のない健全な種いもの確保が大変重要なのです。
 1947年、農林省は無病の種いもの「原原種」を増殖・供給するため、原原種農場(現在の独立行政法人種苗管理センター)を設立し、1951年から植物防疫法に基づく検疫制度を開始しました。原原種を栽培して増殖する種いもを「原種」、原種を栽培して一般の生産者に供給する種いもを「採種」と呼びます。原原種→原種→採種の増殖過程の各段階で検査を行い、一般の生産者に病害虫のない優良な種いもを供給しているのです。70有余年の歴史ある検疫制度が確立されています。
 検査は、①植えつけ前の畑、②栽培期間中の畑、③収穫後の種いもの3区分で行われ、すべてに合格すると、検査合格証明書が発行されます。それを添付しないと、種いもを出荷(移出)できません。全国の種馬鈴しょ生産の9割以上を占めるのは北海道です。種いもは道内流通用の“更新用”と、都府県に出荷される“移出用”に分けられ、遠くは鹿児島の奄美地方まで送られています。

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 種馬鈴しょの栽培は、病変株を見分けて防除を行う知識や経験が不可欠なため、原種や採種の生産者は登録を受けた人しか携われません。一株ずつ目で確認して、異常な株を見逃さずに抜き取る作業は、栽培期間を通して何度も行うので手間がかかり、生食・加工用馬鈴しょを生産する労働時間の約2倍もかかります。さらに土壌伝染による病害虫を防ぐために4年かけて輪作するので、畑は4倍の広さが必要です。
 また近年、ジャガイモシストセンチュウ(以下、センチュウ)発生地域の拡大により、畑の確保も難しくなってきており、種馬鈴しょの生産量は減少傾向にあります。喫緊の課題とされるのが、生産の省力化とセンチュウ対策です。消毒と施肥を同時に行い、種いもを効率良く土中にまくことができる機械の導入や、ドローンの撮影画像を活用してAIによる病株検出技術の開発など、対策が急がれています。根に寄生して収穫量を激減させるセンチュウは、一度発生すると根絶が困難なため、馬鈴しょ生産者にとても恐れられている害虫です。センチュウが確認された畑では、種いもは栽培できません。センチュウに抵抗力のある品種への切り替えが、国の主導・支援で進められています。
 馬鈴しょの国内需要は2022年で約330万t、国内生産量は218万tで自給率は約7割です。ロシアのウクライナ侵攻から食料安全保障を求める声が強まり、国内生産量の引き上げ目標が掲げられ、種いもの安定供給は必要不可欠です。ポテトサラダ、肉じゃが、コロッケなど料理に欠かせない食材は、種いもが無ければ生産できないのです。
 普段何気なく食べている馬鈴しょの裏側には、生産者やJAグループ、植物防疫官ら関係機関が連携して担ってきた種馬鈴しょの生産体制がありました。

参考:農林水産省「いも・でん粉に関する資料」
(ばれいしょをめぐる状況について 令和5年6月時点)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/imo/siryou.html

2025.02更新

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