山に囲まれた信州・飯山に住んでいた子どもの頃、山菜採りが大好きだった。食糧難だったから家族にも喜ばれた。雪の消え際に顔を出す蕗の薹(ふきのとう)は、春を告げる山菜第一号。刻んで味噌汁に散らすと風味がよく、春の香りが立ち上がってきた。味噌にまぶし、手で平たくして網の上で焼くと子どもでも簡単に蕗味噌ができた。
山ウドも、雪解けの頃に川淵の崖のようなところに生え、足元が滑りやすいので採るのはエキサイティングだった。灰汁抜きして生のまま酢味噌で食べてもいいし、天婦羅、胡麻和えにしたり、剥いた皮をキンピラにもした。
六月に田植え休みというのがあり、我が家は農家ではなかったから、暇なので毎日のように蕨を採りに山に行った。竈の灰で灰汁抜きして、味噌汁に入れてもいいし、茹でてお浸しにしても美味しかった。食べきれないので近所の家に配ると、鶏を飼っている家からは卵が届いたりもした。
古希を過ぎた頃から子どもの頃の味が懐かしくなり、山形や新潟の山菜宿を巡って山菜料理を楽しむようになった。檜枝岐(ひのえまた)温泉近くで蕗の薹がたくさん出ているのを見つけ、採って来て蕗味噌を作ったのが病みつきになり、ここ数年は雪解けの時期に故郷に帰り、蕗の薹を採るのが年中行事のようになっている。
この時期、コゴミも出るので、子どもの頃にはあまり食べなかったコゴミも採る。母の実家があった新潟県との県境の富倉という集落では、十年くらい前まで何処でもコゴミを採ることができた。ところが最近は採って商売をする人が増えたからか、勝手に採れなくなった。そのため知人に紹介された家の畑沿いの傾斜地で、長靴を履いてコゴミ採りをするのだが、80歳を過ぎた身にはいささか重労働だ。それでも太く立派なコゴミが山ほど採れる。蕗の薹とコゴミ、道の駅で買ったウドやタラの芽などを水に濡らした新聞紙で包み、ダンボールに入れて家に送る。
帰宅後、ご近所さんを呼んで山菜パーティ。天婦羅、味噌和え、胡麻和え、お浸しとまさに山菜三昧。新鮮なウドは生でも旨い。
残った蕗の薹は、味噌と一緒に油で炒めて瓶詰にし、毎日の朝食に。コゴミもサッと茹でて冷凍保存する。蒸籠にレタスを敷き、その上に薄切りの豚肉を加え、コゴミを散らして蕗味噌を混ぜたポン酢で食べるのが美味で、これは一年中楽しめる。

野上 暁(のがみ あきら)
1943年生まれ、長野県飯山市出身。小学館に勤務し、『小学一年生』編集長、取締役、小学館クリエイティブ代表取締役社長などを歴任。日本ペンクラブ常務理事。JBBY(日本国際児童図書評議会)副会長。主著に『子ども学 その源流へ-日本人の子ども観はどう変わったか』『越境する児童文学-世紀末からゼロ年代へ』『子ども文化の現代史-遊び・メディア・サブカルチャーの奔流』など多数。


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