
香りの良さや甘味だけでなく、赤い色や形もかわいらしいいちごは、全国でオリジナル品種が続々と誕生しています。
古くからいちご栽培が盛んで、1960年代に作付面積が1位だった埼玉県。
近年デビューした県産ブランド「あまりん」と「かおりん」に続き、2021年には新品種「べにたま」が登場しました。
早くから栽培を始めていた主要産地のJAほくさいで「べにたま」の魅力を伺いました。
満を持して高級いちご誕生。県を代表する品種へ
埼玉県加須市は、群馬県、栃木県、茨城県に隣接し、関東平野のほぼ真ん中にあります。利根川と渡良瀬川に挟まれた田園地帯ではさまざまな農産物が作られ、いちごも特産物のひとつ。「べにたま」は、埼玉県農業技術研究センターが糖度の高い「かおりん」と早生(わせ)種で収量の多い「かおり野」を掛け合わせ、約9年の歳月をかけて育成しました。名前はいちごの美しい色合いから「紅」、埼玉や丸い果実のイメージから「玉」を合わせたもので、埼玉らしい名前として公募から選ばれました。
「円錐形(えんすいけい)で、濃厚な甘味があり、1粒50g以上のビッグサイズも多いいちごです。果皮がしっかりしていて輸送に強いことも特徴で、贈答用のいちごとしてブランド化を進めています」と、JAほくさい北川辺営農経済センター営農経済渉外担当の南 寿典さんは胸を張ります。
1953年に加須市で導入されたのを皮切りに、冬の水田の活用策として広がった埼玉県のいちご栽培。都心に近いこともあり、県内各地で観光農園も多く営まれています。オリジナル品種として先にデビューしたのは、2016年に品種登録した甘味の強い「あまりん」と、香り豊かな「かおりん」です。しかし、この2品種は晩生(おくて)種で1月以降に本格出荷となることから「年内に出荷できる早生種を開発してほしい」という生産者の要望に応え、12年から開発に着手。18年に試験栽培を始め、21年に「べにたま」が誕生しました。試験栽培の産地にJAほくさいの北川辺いちご部が選ばれ、30株ずつ2人で栽培するところから始め、22年には全部員へと広がりました。
「『べにたま』は11月末から収穫でき、クリスマスや年末年始に出せるのが魅力です。作付けを増やして『あまりん』と2本立てで力を入れていきたいです」とJAほくさいの南さん。11月下旬から翌年5月頃まで出荷されます。
摘花で数を絞って大粒に

ハウスに入ると、いちごの甘い香りが漂います。
「通常いちごはチューブでの水やりが多いですが、9月の定植直後は『おいしくなれよー』と声を掛けながら、1株ずつジョーロで水やりして根の広がりを促します」と話す北川辺いちご部の髙橋春輝部長。いちご農家を継いで14年目になり、「べにたま」10アール、「あまりん」7アールの2品種を栽培しています。大粒で茎の長い「べにたま」は、地面から1mほどの高さに栽培ベッドを置いて育てる高設栽培だといちごの重みで茎が折れやすくなるので、土耕栽培で高畝にし、茎をなだらかに垂れさせます。「実を大きくするため、脇芽は取り、摘花していちごの数を1株10~15個程度に調整します。花弁の数が多い花が大粒になりやすいので意識して残します」とのこと。受粉にはマルハナバチを利用し、炭酸ガス発生装置で光合成を促進するなど省力化や効率化を進めています。また、防虫用ランプや害虫を退治してくれる天敵を活用した防除などを行って減農薬にも取り組んでいます。実をそのまま食べるいちごだからこそ、消費者が安心して食べられる栽培管理をいつも心掛けているそうです。
収穫は朝7時から脇芽かきなどを同時に行いながら、ヘタの際までしっかり赤く色づいたいちごを見極めて丁寧に摘み取ります。午後に大きさ、形、色などをチェックしながらパック詰めして、16時半までに集荷場へ出荷します。


【右】50g以上の大粒もたくさん。ヘタが反った方が甘いです

「べにたま」は23、24年と2年連続で日本野菜ソムリエ協会主催の「クリスマスいちご選手権」に入賞しました。試験段階から栽培を手掛け、今の高評価に繋がる技術を確立できたのは、やりがいがあったと振り返る髙橋部長。「部全体でさらに研鑽し、クリスマスいちご選手権に全部員が個人名義で入賞を果たすくらいの達人集団を目指したい」と、情熱を込めて話してくれました。

できるだけ摘み取りを遅くし、完熟に近い状態で収穫する「べにたま」。濃厚な甘味と爽やかな酸味のバランスが良く、果汁は口いっぱいに広がるほどたっぷり。大きくて食べ応えがあり満足度の高いおいしさです。いろいろな品種が出そろうこれからの季節。店頭で見かけたら、ぜひ食べてみてください。
(2025年1月中旬取材)

●JAほくさい
【べにたま(いちご)】生産概要
栽培面積:約67アール
生産者数:8戸
出荷量:約24t
(2024年12月〜25年5月)
主な出荷先:県内、東京