「食」と「農」のエッセイ

日本ペンクラブ会員の著名人によるリレーエッセイ

第93回 寮 美千子さん
大和野菜オンパレード

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 2005年に長編小説で泉鏡花文学賞をいただいたとき「これで東京から離れられる」と思った。子どもの頃から、田舎暮らしが夢だった。しかし根性なしのわたしに本格的な田舎暮らしができるはずもなく、選んだのは奈良市。それも旧市街・ならまちのはずれで、江戸時代からある格子の町家が連なる落ちついた町だ。県庁や世界遺産の東大寺・元興寺(がんごうじ)も徒歩圏内。それでも、大都会に比べたら充分に田舎だ。
 以来、20年になる。とうとう、人生で一番長く暮らした都市になった。
 引っ越してきて驚いたのは、個人経営の八百屋さんの店先に旬の野菜が目一杯並ぶことだった。冬は、蕪や大根の類いがずらり。聖護院大根、日野菜、片平(かたひら)あかねなど、首都圏では普段お目にかかれない根菜類が当たり前のように並ぶ。水菜も繊細な千筋(せんすじ)みずなからしっかりした太めのもの。葱だって、細ネギ、大和ふとねぎ、結崎(ゆうざき)ネブカと、種類が多い。それぞれ味わいが違う。夏には、ピーマン類の万願寺、シシトウ、紐唐辛子(ひもとうがらし)が店先を鮮やかな緑に染める。茄子も普通の茄子はもとより、まん丸の大和丸なすから妙にひょろ長い茄子、白い茄子や緑色の茄子まである。「え、この茄子、熟れてないの?」なんて思ったけれど、考えてみれば茄子は最初から紫色。そういう種類なのだ。これがまた焼くと柔らかくて、堪らなくおいしい。
 そして、安い。しかも新鮮だ。京都の山城産や奈良産が多い。奈良市は奈良県の北端にあり、奈良坂を越えたらもう京都だから、まさに地産地消だ。
 あるとき、近鉄奈良駅前の東向商店街にあるお洒落なビンテージ古着屋の店先に、野菜が並んだ。「おやじが野菜作りしていて、食べきれへんから持ってけって」と店主。朝採りだから、どこより新鮮だ。そのうち「近所から頼まれて」と、どんどん野菜が増えて、とうとう古着は奥に追いやられ、事実上の八百屋と化した。「同級生が作っているから」と、名産の葛や三輪素麺も置くようになって、もうなんの店だかわからない。最近は、宇陀でしか売っていない銘菓「きみごろも」や、手作りの柿の葉寿司まで入荷する。奈良に来たら、おみやげにどうぞ。
 そんなわけで野菜料理が格段に増え、健康的な食生活をしている。奈良に感謝。寿命が延びたかもしれない。

第93回 寮 美千子さん 大和野菜オンパレード
イラスト:はやしみこ

寮 美千子(りょう みちこ)

作家。1955年、東京都生まれ。小中高時代を千葉市で過ごす。2005年、泉鏡花文学賞受賞、翌年、奈良市に移住。奈良少年刑務所に出会い、足掛け10年、受刑者のための絵本と詩の教室の講師を務める。『空が青いから白をえらんだのです-奈良少年刑務所詩集-』(新潮文庫)、『父は空 母は大地-インディアンからの伝言』(ロクリン社)など著書多数。

寮 美千子
『父は空 母は大地-インディアンからの伝言』ロクリン社
『父は空 母は大地-インディアンからの伝言』
ロクリン社
日本ペンクラブ

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