
びわは中国原産ですが、日本にも野生種が自生していたと奈良時代の書物に記録が残っています。現在栽培されているものは、江戸時代に中国から長崎に伝来した大玉の品種です。
千葉県南房総市は、約270年前からびわを栽培している歴史ある産地。大粒な「房州びわ」は、1909(明治42)年から毎年皇室に献上されていることでも有名な特産品です。
そのおいしさを探るため、収穫期を迎えた現地を訪ねました。
ハウスから露地2ヵ月間出荷が続く
千葉県南部、房総半島の先端にある南房総市。沖合を流れる黒潮の影響で夏は涼しく、冬は暖かい海洋性気候で、古くからびわの栽培が行われてきました。
「びわは寒さに弱く、マイナス3℃以下になると花や実が凍死してしまいます。初冬に花をつけ、寒さの中で幼果が育つため、房総の温暖な気候と、冷気が停滞しにくい海沿いの傾斜地は、びわの栽培適地です。また、傷つきやすいびわを船で江戸へ運べたことも、栽培が広がった理由のひとつと言われています」と、JA安房(あわ)富浦支店の羽山幸夫さんは話します。現在栽培されているびわは、1879(明治12)年に植物学者の田中芳男氏が長崎から持ち帰った品種「田中」から選抜したものが中心になっているそうです。
代々続くびわ農家のJA安房温室びわ組合の福原茂樹さん。栽培歴40年になるベテラン生産者でハウスと露地を合わせて約33アールのびわ園を手掛けています。

「1花房に50~60個の花蕾(からい)がつくので、栄養を集中させて実を大きくさせるために重要なのが摘蕾(てきらい)・摘果作業です。まず蕾の段階で花房数を半分に減らし、1つの花房の中間3〜4段を残して、各先端部を摘蕾します。そして、袋かけする時に1房1~2個に摘果します。まだ小さい実にひとつずつ手作業で袋をかけるので大変です」。
摘蕾は、ハウスも露地も10月下旬~12月ですが、袋かけはハウスが1~2月、露地が4月。害虫や強い日差しによるシミ・そばかすからデリケートな実を守り、美しいびわを作るための作業です。
「びわ栽培は『寒さとの戦い』と言われますが、ハウスは露地より温度を管理しやすいです。ただ、剪定作業は露地よりも大変になります。ハウスの大きさが決まっているので、屋根近くの実が高温障害にならないよう、こまめに枝葉を落として風通しを良くします。高温になると果肉が固くなったり、あざができてしまったりするからです」と、福原さん。

出荷は、ハウス栽培の「富房(とみふさ)」が4月中旬頃より始まり、その後、大玉の「瑞穂(みずほ)」に移ります。5月中旬からは露地栽培の「大房(おおふさ)」や「田中」の出荷が始まり、6月半ばまで続きます。いずれも「房州びわ」ブランドで統一して出荷され、「富房」は締まった果肉とストレートな甘み、「瑞穂」はみずみずしく大玉、「大房」は酸味が低く強い甘み、「田中」は甘味と酸味のバランスが良く濃厚など、品種ごとに異なる味わいが楽しめます。

時間との闘い。丁寧かつ迅速な出荷・調整作業
ハウス内は袋かけされたびわでいっぱい。まるで袋の花が咲いているようです。はちきれんばかりに膨らんだ袋も見えます。


「収穫は袋に切れ込みを入れて中を覗(のぞ)き、お尻から軸までしっかり色づいていたら、袋ごと取ります。最盛期は1日3200個ほど収穫するので、時間に追われて大忙しです」と、福原さん。収穫した実は、自宅の作業場で袋を外して1個ずつ重さを計り、専用の化粧箱へ詰めていきます。「箱の中で揃って見えるよう、1個ずつ膨らみ方や向きを揃えて箱詰めするので、とにかく時間がかかります」。鮮度の証である産毛が取れないように、できるだけ触らず慎重に作業します。目視での外観や玉ぞろいのチェックは、実から袋を外した時、計量時、箱詰め後と3回。JAの集出荷場でも検品します。「房州びわブランドを維持するために、検品を強化しています」と、JA安房の羽山さん。技術講習会や目ぞろえ会※なども行っており、生産者と一緒にさらなる品質アップに取り組んでいます。


やわらかい果肉はジューシーで食べ応えがあり、爽やかな甘みは飽きの来ないおいしさ。冷やし過ぎると香りや甘味を感じにくくなるので、常温で食べるのがおすすめです。冷やすなら、食べる1~2時間前に冷蔵庫へ入れてください。ヘタ(軸)を持って、手でお尻から皮をむくときれいにむけます。贈り物としても人気の高いびわ、初夏限定の味わいをぜひお楽しみください。
※作物を出荷する前に、出荷要領や基準などを決める会合。味や品質などが一定に保たれる安全・安心への取り組みのひとつ
(取材:2024年4月下旬)

●JA安房
【びわ】生産概要
生産者:296人
栽培面積:約131ヘクタール(2022年産千葉県内)
出荷量:約29t(2024年度実績)
主な出荷先:千葉県内、東京都