「食」と「農」のエッセイ

日本ペンクラブ会員の著名人によるリレーエッセイ

第77回 田原総一朗さん
今こそ循環型農業を

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 現在、農業が大問題だ、大変な危機を抱えている、と多くの人たちが声高に訴えている。だが私は正直言って何が大問題でなぜ危機なのか、容易に理解できなかった。というのは私が幼い頃は、食糧難が深刻な問題だったのである。
 小学校1年生のときに第二次大戦が始まって、米は配給制になった。そして、2年、3年と戦争が激しくなると、配給量がどんどん少なくなって、3年生の秋くらいになると、食事はお粥になり、学校への弁当が持って行けなくなった。しかもお粥も満足に食べられなくなり、米の代わりに芋を食べなくてはならないことが増えてきた。
 その芋も自由に買えなくなって、私の家でも近所に畑を作って芋を栽培することになった。
 このように、食糧難といえば、食料が少なくなることが、危機だと捉えるようになっていたのである。
 現在の日本の食料自給率は38%である。
 だが、農業の専門家たちに問うと、現在の農業の問題は農家の生活がどんどん苦しくなっていることだと言う。そしてその主な原因は円安のせいもあって生産コストの上昇や、高齢化による生産者の減少のためだと言うのである。
 さらに、少子化が続き、日本の人口がじわじわと減少して、米の消費量が減少すると見込まれていることだ。食糧難ではなくとも、米の消費量が減少することで農家の生活も苦しくなる。そして輸出拡大もはかばかしい成果を出していない。
 食糧難が切実ならば、田園を拡張させて農業の技術を向上させればよいのだが。米の消費量の減少はどう対処すればよいのか、非常に難しい問題だが何人かの専門家たちにどうすればよいのか、と問うと家畜などに飼料米を食べさせるべきだ、と強調した。農林水産省も日本の飼料米を食べて育った畜産物をブランド化して循環型農業を進めようとしている。
 何とかして、日本の食料安全保障のため、農家には頑張ってもらいたい。

イラスト:はやしみこ

田原総一朗(たはら そういちろう)

ジャーナリスト。1934年滋賀県彦根市生まれ。早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所、東京12チャンネル(現テレビ東京)ディレクターを経て、1977年にフリーに。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。主な著書に『原子力戦争』(筑摩書房)、『日本の戦争』(小学館)、『全身ジャーナリスト』(集英社)など。

田原総一朗(たはら そういちろう)
『老人の知恵』毎日新聞出版
『老人の知恵』
毎日新聞出版
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