
アフガニスタンが原産とされるにんじんは、10世紀頃に東西へ伝播したことで、オレンジ色の西洋系と、金時にんじんに代表される赤い東洋系の2種類に分かれました。
日本には江戸時代に東洋系が先に伝来しましたが、今では西洋系が主流です。
徳島県板野郡は西洋にんじんの栽培が半世紀以上という歴史ある産地。
特に春にんじんは全国一の生産量を誇ります。
ハウストンネルで冬越しする独自の栽培方法

徳島県の北東部、吉野川の北岸に位置する板野郡。温暖な瀬戸内の気候と、日本の三大暴れ川として知られる吉野川がもたらした肥沃な土壌に恵まれ、古くから野菜の栽培が盛んです。
「徳島の春にんじんは、少し屈(かが)むと人が入れる高さの大型ハウストンネルで雨風に当てずに生産される独自の栽培方法が特徴です。1955年頃から試験的な栽培が行われて先人たちの知恵と努力が実を結んだこと、さらに1965年頃に国の指定産地※となったことで、生産が広がりました」と話す、JA徳島県営農指導部の吉川准次次長。産地リレーによって一年中流通しているにんじんですが、JA徳島県では全国的に供給量の少ない春に出荷するため、10月中旬から種をまき、ハウスで越冬させて3~5月に収穫します。栽培期間は約135~145日と、夏から冬に収穫する露地栽培の約90~100日より長く、ハウス設営の労力はかかりますが、寒い時期にゆっくり時間をかけて成長させることで、「皮が薄くてやわらかく甘い」高品質なにんじんに育つのです。
「種をまいてすぐにパイプを立て、ビニールを掛けてハウストンネルにします。ハウスが保温と雨除けになり、水分を切らし気味に育てることで甘くなります」と話すのは、にんじんを作り続けて40年以上のベテラン生産者、板野郡にんじん連絡協議会の生田圭一郎さん。約6ヘクタールのにんじん畑のほか、米やかぶも栽培しています。

「発芽の時は多少高めの温度でも大丈夫だけど、成長期は涼しくしないと葉だけが伸びてしまいます。そこで、柄の先に刃がついた専用器具でビニールに直径8~12cmの穴を開けて温度を調節します。まず数m間隔から始めて徐々に増やし、収穫前には『ハチの巣状』に開けます」。外気を取り入れる穴をいつ、いくつ開けるかが生育に影響するので、「穴開け」作業は生産者の腕の見せ所なのだとか。
※ にんじん、ねぎなど消費量が多い野菜(指定野菜・15品目)について、生産・出荷の安定を図るため一定規模の集団産地を国が指定すること
収穫・選別・箱詰めを同時進行して即出荷


収穫真っただ中の生田さんのにんじん畑を訪れると、高さ約1.5m、全長90mもある長いハウストンネルが幾重にも並ぶ圧巻の光景が広がります。
「うちでは収穫から選別、出荷まで同じ日に行います。畑、自宅作業場、集出荷場を何度も行き来するので大忙しです」と、生田さんは額の汗をぬぐいながら話してくれました。収穫はまずハウスの解体から始まります。次に、収穫機でにんじんを抜き取りながら次々と葉が切り取られ、フレコンバッグに詰められていきます。出荷できないにんじんは、収穫機の同乗者が目視で選り分けます。多い日は1日で約200kg入るフレコンバッグ40袋(約8t)を収穫します。

最盛期は6~14時まで収穫し、洗浄・選果選別・箱詰め作業は17時頃まで行います。「市場のニーズは料理に使いやすいMサイズなので、生育をしっかり見極めて適期での収穫を目指しています」と、生田さんは話します。

箱詰めしたにんじんは、すぐにJAの集出荷場に運び予冷庫へ。出荷は3月初旬から始まり、3月中旬~5月中旬が最盛期で、6月上旬頃まで続きます。最盛期の板野郡では、1日の出荷量が6万ケース(10kg箱)を超え、各集出荷場に多数のトラックが出入りするそうです。

ハウスで大切に育てられたにんじんは、やわらかく、甘くて、みずみずしさが魅力です。生食がおすすめなので、スティックサラダやスライスをグリーンサラダに添えれば、鮮やかなオレンジ色が料理を引き立ててくれます。生田さんのおすすめは、ジューサーで搾ったにんじん100%ジュース。「来客時に出したら『はちみつを入れているの?』と驚かれたくらい、口いっぱいに甘みを感じられます」。果物のような甘みやみずみずしさを、生でストレートに感じてみてください。
(取材:2024年4月中旬)

●JA徳島県
【にんじん】生産概要
板野郡にんじん連絡協議会
生産者:189人
栽培面積:625.5ヘクタール
出荷量:約3万t(2024年実績)
主な出荷先:関東、中部、関西など