
独特の香りと歯ごたえがあり、漬物でおなじみのらっきょう。
ニンニクと同じユリ科の多年草で、鱗茎(りんけい)と呼ばれる白い根の部分を食べます。
9世紀頃に中国から伝来し、当初は薬として用いられていました。
らっきょうの生産量が全国1位の鳥取県。
初夏にしか出回らない生らっきょうを求めて、畑が広がる鳥取砂丘を訪ねました。
過酷な条件で育つ生命力の塊

鳥取県東部にある鳥取砂丘は、日本海に面した南北2.4km、東西約16kmにわたる海岸砂丘で国の天然記念物です。特産品のらっきょうは、生命力が強く、日本海の強風と砂地という過酷な環境でも育つため、江戸時代から栽培されてきました。小石川御薬園(こいしかわおやくえん)から参勤交代のときに付け人が持ち帰り、自家用として育てたのが始まり。今では「鳥取砂丘/ふくべ砂丘らっきょう」として地理的表示(GI)保護制度※にも登録され、全国に知られるブランドとなっています。
「砂丘畑は、保水力、保肥力ともに乏しく、冬には雪も積もる厳しい環境です。だからこそ色が白く、皮の層〔鱗片(りんぺん)〕が薄く何重にも重なり、漬物にしても引き締まってシャキシャキした食感が生まれます」と、JA鳥取いなば福部支店営農経済課の安田悠作主査。
らっきょう栽培は、7月に種球(たねきゅう)を畑に植えつけると鱗茎が分球して成長し、翌年5~6月には掘り起こして収穫することができます。
「定植はアルバイトの植え子さんを含めた12人で、3.7ヘクタールの畑に1球1球手植えします。真夏の砂丘畑は表面温度が50℃以上になるので、熱中症対策は欠かせないし、何より体力が必要ですね」と話すのは、らっきょう農家の2代目で栽培25年目になる西尾祥幸さん。砂丘は文字通り「丘」で平坦ではないため、農機を安定して動かしにくく、防除、追肥などの栽培管理のほとんどが手作業となります。

「草取りも手でやるので大変です。数日かかってすべて取り終わったと思い振り返ると、最初取った所にまた草が生えていて…。収穫までずっと闘いです」と、苦笑する西尾さん。秋には土寄せし、収穫近くなると球が締まるよう肥料を打ち切るなど、こまめに手をかけて品質を高めていきます。
※産地ならではの自然環境や伝統的な技法などで育まれてきた品質、社会的評価などの特性を持つ産品の名称(地域ブランド)を国が地域の知的財産として保護する制度
出荷作業に欠かせない「切り子さん」

海を望む風光明媚な砂丘地にらっきょう畑が広がります。収穫はらっきょうの球が固くなってきた5月中旬からスタート。まず畑で根元15cmほどを残して葉を刈り取ってから、トラクターでらっきょうを掘り上げます。「うちではスタッフを含めた5人で作業して、1日約6tを収穫します。でも、大変なのは収穫後の根切り作業です」と、西尾さんは話します。


出荷の形は、葉をさらに切って根を約1cm残した「根付き」と、すぐに漬け込めるよう葉と根を切って選果場で洗浄・芽止め処理した「洗い」の2通りあります。掘り上げたらっきょうは切り子さんのもとへ運んで根付き用と洗い用に根切りしてもらい、選果場に出荷します。
「らっきょうを1粒ずつに分けて素早く切り落とすのは、技術が必要です。どの農家も人脈を駆使して数十人の切り子さんを確保します。来てもらうだけでなく、遠方の切り子さんには配達するので、収穫時期は県内各地を行き来しててんてこ舞いです」と西尾さん。


選果場では、「根付き」は温風で乾燥した後、薄皮を除去して3つのサイズに分け、自然冷却してから10kg箱に詰めます。「洗い」は、洗浄後に10分ほど塩水に浸して切り口から芽が伸びないよう芽止め処理をし、変色などを目視でチェックした後、1kgごとに袋にまとめ箱に詰めます。最盛期の出荷量は1日当たり「根付き」が20t、「洗い」が45tに上ります。


「手作業が多く、植えつけや根切りの人員確保の難しさもあり、新規就農に課題がありますが、産地一丸となって取り組み、生産量を維持していきたいです」と、JA鳥取いなばの安田主査は話します。
鳥取砂丘らっきょうが市場に出回るのは5月下旬から約1ヵ月間。前半は球がやわらかめなので、刻んで薬味や炒飯の具にしたり、そのまま焼きらっきょうにしたりと玉ねぎのように食べるのがおすすめです。漬物にするなら、球がギュッと締まる中盤以降のものをどうぞ。初夏ならではの手仕事を楽しみ、旬を味わうひとときを満喫しましょう。
(取材:2024年5月下旬)

●JA鳥取いなば
【らっきょう】生産概要
生産者:58名
栽培面積:約110ヘクタール
主な出荷先:関東、中国・四国、関西