ふるさと探訪

日本各地の農畜産物を産地からリポート

苦みが少なく、生食でもおいしいおおいたピーマン

撮影◎磯野博正

ピーマンは、ししとうやパプリカと同じ辛味のないトウガラシの仲間です。
豊富に含まれるビタミンCは加熱しても壊れにくく、鮮やかな濃緑色は食欲をかきたて夏の食卓に欠かせません。
一年中出回るピーマンですが、大分県は夏秋(かしゅう)栽培の産地として関西以西でトップの生産量を誇ります。
県産ブランド「おおいたピーマン」は、肉厚でやわらかいと市場の評価が高く、青臭さや苦みが少ないため、学校給食で子どもたちに人気となっています。

品種を統一し、西日本最大級の産地へ

 大分県では1970年頃からピーマンの栽培が始まりました。宮崎県など九州南部では冬の温暖な気候を生かして冬春栽培が盛んですが、九州北部に位置する大分県は夏秋栽培が主流です。
「当初は露地栽培でしたが、1975年頃から病害対策のため雨除けハウス栽培に移行して生産が安定し、作付けが拡大しました。さらに2000年頃に青臭さや苦みが少ない品種『さらら』を導入し、市場からの評価を得て、産地を形成してきました」と、JAおおいた中部営農経済センター営農部園芸課の藤塚彩子係長。今では「おおいたピーマン」としてブランド化され、5~11月まで長期出荷しています。
 この道50年のベテラン生産者、JAおおいたピーマン生産部会の甲斐敏資(かい としもと)さんは「さらら」に惚れ込んだ1人です。「肉厚なのに果肉はやわらかくて、苦みが少なく、ほんのり甘い味に驚きました。小学校の給食にピーマンを提供すると苦みを嫌がる子どもが多かったのですが、『さらら』にしてからピーマンが好きと言われるようになってとてもうれしいです」と、笑顔で話します。
 大分市街地から南へ車で40分ほど。山間地にある甲斐さんのハウスを訪ねると、整然と並んだ株には緑の艶(つや)やかな実がなっています。

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「シャキシャキしておいしいので、たくさん食べてください」と話すJAおおいたピーマン生産部会の甲斐敏資さん(取材時は部会長)
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7棟のハウスに合計1500株が植えられています

「植えつけは3月上旬。たくさん実をならせるために、枝同士が空き過ぎず、ぶつからない株間70cmで植えます。植えつけ直後はまだ寒いので、不織布とビニールで二重に覆って苗を保温し、枝が広がり始めたら太陽光が中まで当たるように整枝を行い、色が濃く艶やかな実に育てます」と、甲斐さん。現在7棟のハウスで1500株を育てており、1株からシーズンを通して400個も収穫するのだとか。6月の最盛期には、1日に8kg入りコンテナで30箱ほどの収穫量になるといいます。

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定植時にネットを3段セットしておき、ピーマンの成長に従って上にずらして茎や枝を支えます
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収穫後、さらに軸をハサミで切り落とします

 安定した生産量を誇る夏秋産地でも、近年の猛暑が栽培に影を落としつつあります。
「ピーマンは実の中に水を溜め、みずみずしさを保っています。でも急に暑くなると、水が株に吸収されて実の下側にシワができてしまい、出荷できません。『さらら』はやわらかい品種なのでこのシワができやすく、猛暑の年は特に多く発生します。温暖化が進むと栽培が難しくなるので、暑さに強い品種の導入などの対策が必要です」と、甲斐さんは今後の課題を口にします。

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実の中に水分を溜め、みずみずしい

生産者の負担を減らす大規模選果場

 JAおおいた管内には、3つの大規模なピーマン専用選果場があり、一元集出荷をすることで「おおいたピーマン」ブランドの品質向上と安定出荷を目指しています。
「サイズ分けや袋詰めなどの出荷作業は機械化されていて、生産者は選別・調製作業に時間を割くことなく、収穫に専念することができます」と、藤塚係長。今回訪れた大野選果場では、多い日は1日の出荷量が20tにも上るそうです。

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選果場ではまず、曲がり、キズ、腐れがないか人の目でチェックした後にサイズ分けし、袋詰めや箱詰めされて出荷します

「おおいたピーマン」のおすすめの食べ方を聞くと、「みずみずしさを味わうため、生のままサラダや和え物にするのがおすすめです」と、藤塚係長。続けて甲斐さんは「しょう油やドレッシングもいいですが、薄くスライスしてマヨネーズとケチャップを混ぜたオーロラソースをかけるとよく合います」と、教えてくれました。
 ピーマンは、加熱してもビタミンCが壊れにくい点がうれしい食材です。生はもちろん、さっと焼いたり炒めたりと、上手に使いこなして食卓を彩りましょう。
(取材:2024年6月)

「研修制度を利用して若い世代も育っており、産地を挙げておおいたピーマンの生産に取り組んでいます」と話す、JAおおいたの藤塚彩子係長

●JAおおいた

【ピーマン】生産概要
生産者:373名
栽培面積:約58ヘクタール
出荷量:約3470t(2024年度実績)
主な出荷先:関西、九州