ふるさと探訪

日本各地の農畜産物を産地からリポート

おいしい卵は健康な鶏から平飼いたまご

撮影◎磯野博正

国内で主流の「ケージ飼い」に対して、「平飼い」は鶏の習性に配慮した飼育方法で、鶏たちが鶏舎の中を自由に動き回ることができます。
EUの厳しい基準をベースにした新しい多段式の平飼い設備を2017年に導入した株式会社アグリテクノ。
「よりナチュラルに」というコンセプトのもと、鶏の行動欲求に合わせた飼育環境で「平飼いたまご」を生産する茨城県の桜川農場を訪ねました。

鶏の習性に合わせた清潔な平飼い鶏舎

2
2
「おいしい平飼いたまごをたくさん食べてください」と話す、(株)アグリテクノの三品重利代表取締役社長

 福島県に本社を置き、鶏卵の生産と販売を行う(株)アグリテクノ。育成場を県内4カ所、採卵農場を県内と茨城県に7カ所、卵をパック詰めするGPセンターを県内と埼玉県の2カ所で展開しています。
「鶏は砂浴びをする習性があり、寝るときは止まり木で休み、周りを囲った静かな場所で産卵します。この鶏の習性に合わせ、アニマルウェルフェアに配慮した養鶏を行うために、多段式平飼い鶏舎(エイビアリー方式)を採用しました。桜川農場には平飼い鶏舎が3棟あり、約11万羽を飼育しています」と、(株)アグリテクノの三品重利代表取締役社長。鶏舎は自然の光と風が入るセミウインドレスで、鶏舎内温度が高い時や空気を入れ替える時は、ファンで人工的に風を発生させて快適な飼育環境を整えます。
「欧州を視察した時、スーパーマーケットにオーガニック卵や平飼いの卵など、鶏の飼料や飼育方法によって区別された卵がたくさん並び、買い物客が自由に選べることに衝撃を受けました。自分も日本で他社にないこだわりの卵を作ってみたいという強い思いでチャレンジしました」と、三品社長は導入時の経緯を熱く語ってくれました。

※ 鶏の行動欲求が満たされるように休息エリア、産卵エリア、運動エリアなどを備えた多段式の鶏舎のこと

2
朝一番に、鶏の様子をつぶさに観察します
2

 多段式平飼い鶏舎では、卵を集めたり、鶏糞を回収したりする作業がバーコンベアで自動化されています。通常の平飼い鶏舎(バーン方式)より飼育できる羽数が多いことから、採算面や衛生面も考慮して選択し、社長自らイタリアの農場を視察してノウハウを学んだそうです。
「卵を産む鶏は多段式平飼い鶏舎で飼育しますが、ひなは専用の育成舎で育てて段階的に慣れさせます。まず、育成舎で生後40日齢から一羽ずつ介助して羽ばたく動作や、止まり木で休むなど鶏の習性に沿ったトレーニングを2~3週間行います。100日齢で成鶏舎に移したらまたそれをくり返し、巣箱で産卵することも覚えさせます」と、三品社長。他にも「鶏は自由に動ける反面、喧嘩もするので見回りが欠かせない」など、飼育管理に手が掛かります。1羽当たりの飼育面積、止まり木の長さ、給水・給餌スペースなどはEU基準で、ケージ飼いの約2.5倍の広さが必要です。

2
毎日7万個弱のたまごが集卵されます

生産から出荷まで一貫した品質管理

 桜川農場の卵は、埼玉県のGPセンター(春日部配送センター)に毎日約15t送られ、洗卵・乾燥後に目視とセンサーで検卵されます。「卵の殻を叩いて振動させ、その打診音によってヒビ割れをチェックし、無黄卵や二黄卵などは光で検出します。安全・安心な卵を毎日お届けするために万全を期しています」と説明するのは、松村尚史センター長。

「温泉卵がおすすめ」と笑う春日部配送センターの松村尚史センター長
3
【左】汚卵検査装置では流れてくる卵をリアルタイムにカメラでチェック
【右】卵を機械で吸引して瞬時に運び、パックに詰めます
3
パック詰めの後も、目視で厳しく確認します

 同センターは食品安全マネジメントに関する国際的な規格FSSC22000を取得。生産農場とGPセンターそれぞれで衛生管理を徹底し、サルモネラ、一般生菌数などさまざまな検査を行い、加えて外部機関による品質検査体制も設けています。
 JA全農たまごでは、この卵を「平飼いたまご」として販売。鶏の飼料は遺伝子組み換え原料の混入を防ぐ分別生産流通管理を行ったとうもろこしを主原料とし、卵の容器は再生紙と卵の殻を使用したリサイクル材のモウルドパックを使っています。販売数は年々伸び、認知度も高まっています。

5
自然に還りやすい「モウルドパック」で販売しています

 卵が生で食べられるのは、日本ならではの食文化。消費者に安心して食べてもらえるよう生産者は努力を重ね、こだわりを持って生産しています。これからはアニマルウェルフェアの観点から、鶏の習性に配慮した飼育管理への注目がさらに高まると考えられます。飼育方法の特徴を伝え、消費者が選択肢のひとつとして「平飼いたまご」を自由に選べるようにしたい――持続可能な発展を求めて、(株)アグリテクノが平飼いに取り組む原点です。
(取材:2024年8月中旬)

▼全農たまごの「平飼いたまご」ブランドページ
https://www.jz-tamago.co.jp/hiragaitamago/

●(株)アグリテクノ 桜川農場

【平飼いたまご】生産概要
飼養羽数:約11万羽
平飼いたまご出荷量:約120t/月
主な出荷先:JA全農たまご、キユーピー(株)ほか