なるほど全農

食と農についての「なるほど」な情報をお届け

病害虫を防ぐ総合的なアプローチ【IPM】
IPMは作物を安定的に生産できる 病害虫・雑草対策です

農産物の生産現場では持続可能な農業を目指して、天敵を活用するなど防除技術を組み合わせて病害虫や雑草を防ぐ「IPM(総合防除/総合的病害虫・雑草管理)」という方法が広がっています。このIPMの概要や具体的な取り組みを、JA全農 耕種資材部農薬課農薬技術対策室の下田周平室長に聞きました。

1
耕種資材部の下田周平室長

──「IPM」とは、どういう意味でしょう?
 IPMは、Integrated(総合的な)Pest(病害虫・雑草)Management(管理)の略で、農薬だけに頼らず、多様な方法を組み合わせ、農作物を安定的に生産できるよう病害虫や雑草を管理することです。
──「IPM」では具体的にどんな防除をするのですか?
 防除とは、耕種的防除(栽培方法の工夫など)、物理的防除(防虫ネットの利用など)、生物的防除(天敵の利用など)、化学的防除(化学農薬の適切な利用)の大きく4つに分かれます。病害虫の発生を低いレベルに抑えるため、各防除技術のコストを考えつつこれらを適切に組み合わせ、予防、判断、実施の考え方に沿って防除します。人間に例えると、病気を防ぐには「予防」が大事で、体調不良を感じたら病院に行くかどうか「判断」し、悪化してきたら病院で「治療(実施)」するのと一緒です。IPMでは、まずは病害虫が出ないように予防措置を取ります。それでも病害虫が発生してしまったら、被害状況を観察して適切な防除を行います。それが健全な農作物が育つことに繋がります。
──どんなメリットがありますか?
 天敵や防虫ネット、粘着シートを活用するなど、化学農薬以外の方法を組み合わせることで、病害虫や雑草が農薬に抵抗性を持つことを防ぎ、農薬の選択肢を維持できます。また、生産者は農薬の散布回数を削減でき、生産コストや作業時間を減らせます。
 消費者にとっては、病害虫による不作が減るため、農産物が安定的に市場に出回ります。また、「環境に配慮した栽培方法で育てた農産物」という選択肢が増えることも期待されます。

※ 同じ系統の農薬を何度も使うことにより、その農薬の効果が低下すること

──全農ではどのようなIPMを展開しているのですか?
 環境調和型農業に役立つ技術と資材をまとめた「グリーンメニュー」をつくり、生産現場への普及を進めています。中でも、化学農薬の使用量低減を目指したIPMの取り組みは、重要な柱です。具体的には、天敵の活用や天敵保護装置「バンカーシート®」の普及、化学農薬メーカーと連携した防除プログラムの構築などです。

1
イチゴ栽培でのバンカーシートの利用

──特に力を入れた取り組みは?
 2020年から始めたイチゴ栽培の防除プログラム「イチゴハダニゼロプロジェクト」です。イチゴの主要害虫であるハダニは作物の生育不良や収穫量の減少を招き、農薬に抵抗性を持ちやすい害虫です。その天敵であるカブリダニを増やし長期間放出する資材「バンカーシート®」を活用して、育苗から収穫までの栽培期間における防除作業を時系列でまとめています。このプログラムは、福島、埼玉、長崎など全国のイチゴ産地で導入が進み、効果が出ています。
──今後の目標は?
 今後はイチゴハダニゼロプロジェクトのような全栽培期間を網羅する防除プログラムを、他の作物でも行っていきたいと考えています。病害虫の増大で影響を受けそうな品目や地域などに向け、IPMの活用方法を研究し、全国の生産現場に普及を進めていきます。

2
イチゴハダニゼロプロジェクトについてはこちら▼
https://www.zennoh.or.jp/operation/nouyaku/icigo-hadani/