コラム 記事一覧

ふるさと探訪

日本各地の農畜産物を産地からリポート

ミネラルたっぷり、濃厚で奥深い甘みさとうきび

撮影◎磯野博正

砂糖の原料のひとつである「さとうきび」は、沖縄県や鹿児島県南西諸島の農業と経済を支える重要な作物です。
さとうきびの搾り汁を煮詰めてそのまま固めたものが黒糖(黒砂糖)。
搾り汁から結晶を分離した分蜜糖(原料糖)は、精製糖工場に運ばれて、さらに純度が高められ上白糖などに加工されます。
主要産地である沖縄本島北部の伊江島で、さとうきびの栽培と工場で黒糖になるまでを教えてもらいました。

3種類の作型を組み合わせて栽培

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「手を掛けて育てて良いものができると、喜びややりがいを感じます」と話す、伊江村さとうきび生産組合の内間 優組合長

 沖縄本島北部、沖縄美ら海(ちゅらうみ)水族館のある本部(もとぶ)町からフェリーに乗り約30分で伊江島に到着します。年間平均気温24℃。さとうきび、落花生(ジーマミ)、島らっきょうなどが栽培される自然豊かな島です。
「さとうきびはイネ科で、節にある芽が伸びて成長します。植えつけは20~30cmにカットしたさとうきびを1つずつ畝(うね)の溝に並べ、芽を伸ばしていくんですよ」と話すのは、伊江村さとうきび生産組合の内間(うちま)優組合長。実家の農業を継ぎ、約40年にわたり66アールの畑でさとうきびを栽培するベテラン生産者です。
 風にも、水不足にも強いさとうきびとはいえ、品質の良いものを作るには徹底した栽培管理が必要と話します。特に、雑草は成長の妨げになるだけでなく、収穫時に混ざると製糖工場での選別や品質確認も大変になるので、対策には力を入れているとのこと。
「成長期は1日3cmほど伸びます。重みでしなって倒伏しないように培土(土寄せ)も欠かせませんね」。背丈が2~4mにもなるさとうきびは、培土を繰り返すことで根の張りが促進されて、茎の数を増やしながら成長していきます。
「さとうきびは茎に糖分を蓄え、長く育てると茎が太くなって糖度が上がります。春に植えて翌年の冬に収穫する春植、夏に植えて翌々年の冬に収穫する夏植、一度収穫した株でもう一度芽出しをして翌年の冬に収穫する株出と、3種類の作型がありますが、10アール当たりの収穫量が多いのは夏植です。でも、毎年新しい苗で育てると労力がかかるので、2年目は同じ株で栽培するのが一般的ですね」と説明するのは、JAおきなわ伊江支店加工部の友寄(ともよせ)孝明部長。伊江島では夏植で栽培し、その後株出を1回程度行ってから改植することが多いといいます。

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中央部の城山(ぐすくやま)(標高172m)は伊江島のシンボル

鮮度が落ちるので2日以内に出荷

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【左】収穫機前方のローラーでさとうきびを巻き取り、葉と根がカットされて30~40cmに断裁後、ネットに収納
【右】1つの収穫ネットに約1tのさとうきびが入ります

 例年1~3月は県内の各産地で一斉に収穫と製糖が行われます。海風に揺れる広いさとうきび畑を訪ねると、大型収穫機(ハーベスタ)で刈り取りの真っ最中。
「さとうきびの堅い茎を斧で1本ずつ刈り取っていくのは大変な重労働で、かつては『ゆいまーる』と呼ばれる地域の共同作業で収穫が行われていました。今は、手刈りで行う生産者は少なく、JAが管理しているハーベスタを使った機械刈りが島全体の8割を占めます」と、友寄部長。製糖工場の受け入れ量は1日60t。さとうきびは刈り取り直後から鮮度がどんどん下がるので、収穫後すぐに出荷し、工場で製糖できるようJA主導で計画的に機械刈りのスケジュールを決めています。
「うちの畑だと、年間の収穫量は約46tです。黒糖にすると6440kgくらい」と、内間組合長。
 製糖工場では、まず生産者ごとに計量して糖度測定と品質チェックを行います。その後、葉の破片や潰れた茎などを手作業で選別します。3段階のカッターで細分化され、シュレッダーハンマーで細かく砕いて搾汁。ボイラーで加熱して不純物を沈殿させながら、4つの濃縮缶で段階的に煮詰め、最終的に糖度93度の黒糖に仕上げます。毎日7~8tの黒糖を製糖し、2日に1回本島へ出荷するとのこと。「搾りかすは煮詰める際の燃料に使い、重油は使いません。葉ガラなどは肥料にします」と、友寄部長。循環型の製造で環境保全にも力を入れています。今後は「栽培の機械化と製糖の効率化を進めて、より高品質な黒糖を製造できるよう生産組合と一丸となって取り組んでいきたい」と話してくれました。

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【左】大型ホイールローダーで大量のさとうきびを運搬
【右】節のあるさとうきびの茎。葉ガラを取り除き、断裁・圧搾されて糖汁になります
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【左】圧搾したさとうきびの糖汁を加熱して不純物を取り除きます
【右】業務用のほか、小売り用のかち割りや粉末タイプも製造しています

 サンゴ石灰岩に由来する赤土の「島尻マージ」で育った伊江島産の黒糖は、ミネラルたっぷり。上白糖のように精製しないのでさとうきびの成分が残り、ほのかな塩気や苦味もある奥深い甘みを楽しめます。お茶請けとしてはもちろん、角煮や肉じゃがなどの料理に使えばコクをプラス。普段の食卓に気軽に取り入れて、いろいろなアレンジを楽しんでみませんか?
(取材:2024年1月下旬)

「環境に配慮しながら今の生産量を維持し、多くの方に黒糖をおいしく食べてもらいたいです」と、JAおきなわの友寄孝明部長

●JAおきなわ

【さとうきび】生産概要
生産者:約151人
収穫面積:約88ヘクタール
産糖量:約829t(2023〜24年実績)

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おかゆ・雑炊・リゾットかぶと鶏肉のリゾット

兵庫県・うっちゃん

1人分:約355kcal 調理時間:約40分

材料4人分

  • 1合
  • 鶏もも肉 小1枚(250g)
  • かぶ 大1個
  • たまねぎ 1/4個(50g)
  • にんにく 1/2片
  • パルメザンチーズ(粉) 40g
  • ローズマリー 1本
  • 適量
  • 黒こしょう(粗びき) 適量
  • 白ワイン 1/2カップ
  • お湯 3カップ
  • オリーブ油 大さじ1

作り方

  1. 鶏肉は3cm角に切って、塩小さじ1/3とこしょう少々で下味をつける。かぶは皮をむいて2cm角に切り、葉は2cm長さに切る。たまねぎ、にんにくはみじん切りにする。

  2. フライパンに油を中火で熱し、鶏肉の皮目から焼き、焼き色をつけて取り出す。

  3. 2のフライパンにたまねぎとにんにくを入れて中火で炒め、たまねぎが透き通ったら生米を加え、塩小さじ1/4をふって全体に油が回るまで炒める。2の鶏肉を戻し入れて白ワインを加えて煮立たせ、アルコールを飛ばす。

  4. 3にかぶとローズマリーを入れ、お湯2カップを加えて煮立ったら弱火にして、木ベラで鍋の底をなぞるように時々混ぜながら約10分煮る。

  5. 水分がなくなったら残りのお湯とかぶの葉を加え、同様に混ぜながら汁気がなくなるまで5〜10分煮る。

  6. 米に少し芯が残っているくらいになったらチーズを加えて混ぜ、火を止める。器に盛ってこしょうをふり、お好みでチーズ(分量外)をかける。

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おかゆ・雑炊・リゾットさつまいもの茶がゆ

山口県・食いしん坊さん

1人分:約180kcal 調理時間:約40分

材料4人分

  • 1合
  • さつまいも 中1/2本(120g)
  • 茶葉(ほうじ茶) 6g
  • 小さじ1
  • 黒いりごま 適量
  • 塩昆布 適宜

作り方

  1. さつまいもは洗って皮ごと1.5cm厚さの半月切りにしてボウルに入れ、15分水にさらしておく。米は洗ってザルにあげ、ほうじ茶はお茶パックに入れる。

  2. 深鍋に水1.4Lを入れて強火で沸かし、1のほうじ茶を入れ、中火にして3分煮出して取り出す。米とさつまいもを加え、再沸騰したらアクをすくって弱火にする。

  3. 時々、鍋底をすくうように混ぜながら15〜20分蓋をせずに煮る。

  4. 少しかために煮上がったら塩を入れ、ゆっくり混ぜて蓋をし、火を止めて5分蒸らす。器に盛り、ごまを散らして、お好みで塩昆布を添える。

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おかゆ・雑炊・リゾットにら雑炊

京都府・小西宣子さん

1人分:約235kcal 調理時間:約15分

材料4人分

  • ご飯 茶碗に軽く4杯(400g)
  • にら 1/2束(50g)
  • 大根 6cm(200g)
  • 2個
  • 鶏がらスープの素 小さじ2
  • 大さじ1
  • 2つまみ
  • 薄口しょう油 大さじ1と1/3

作り方

  1. にらは3cm長さに切り、大根は皮をむいて長さ3cm、太さ5mmの細切りにする。卵はボウルに割り入れて溶いておく。

  2. 鍋に水750mlと鶏がらスープの素と酒、大根を入れて強火にかけ、沸騰したら中火にして5分ほど煮て、大根がやわらかくなったらご飯を加える。ひと煮立ちしたら塩としょう油で味を調える。

  3. にらを加えてひと混ぜし、再沸騰したら溶き卵を菜箸に伝わせながらゆっくりと回し入れて火を通す。

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野菜の育て方

ビギナーに人気!季節に合わせた家庭菜園

ラディッシュ

イラスト◎かとうともこ 監修◎山崎弘一郎

短期間で収穫できるのでプランター栽培に最適。色や形などいろいろ楽しめます。

 おなじみの赤丸形のほかに赤長や白長、紅白など小さくて可愛いフォルムで大人気。別名「二十日大根」とも呼ばれ、たねをまいてから1ヵ月前後で収穫できるため子どもと一緒に栽培を楽しむのにもおすすめです。生育適温は15~20℃。日当たりと風通しが良い環境で育てましょう。室内でも育てられるので、真夏を避ければ一年中栽培できます。
 成長に合わせて間引きながら育てます。間引き後は株が倒れないよう、実の部分が露出しない程度に土寄せをします。アブラナ科なので害虫が発生しやすく、防虫ネットを被せると効果的です。
 プランターの土には野菜専用培養土を使い、栽培期間が短いため追肥は不要です。連作障害があるので、新しい土にするか再生処理をしてから使いましょう。

たねまき

指や板などを使って深さ1cm位のまき溝を作り、たねが重ならないようにすじまきにします。土を被せて軽く手で押さえ、たっぷり水やりします。冬場は室内の日当たりの良い場所に置いて管理しましょう。

発芽・間引き

4~7日で発芽します。発芽がそろったら混み合っているところを他の株を傷めないように丁寧に間引き、葉と葉が重ならないようにします。
2回目は本葉2~3枚で株間2~3cm、3回目は本葉4~5枚で株間5~6cmになるように間引きながら育てます。

水やり

土の表面が乾いたらプランターの底から水が流れ出るくらいたっぷり水やりします。

土寄せ

茎葉が細く株が倒れやすいので、間引きの後などに適宜、株元に土寄せしましょう。

害虫予防

アブラムシやアオムシ、ヨトウムシなどの害虫がつきやすいので防虫ネットなどで覆って防ぎましょう。こまめに葉の裏などを観察し、見つけたらすぐに取り除きます。

収穫

品種によって違いはありますが、肥大して土から顔を出してきます。直径が2~3cmになれば収穫適期です。株元を持って引き抜きます。採り遅れるとスが入ったり、ひび割れたりするので早めに収穫しましょう。

●ラディッシュ栽培スケジュール

(プランター栽培)

スケジュール

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家庭菜園Q&A

家庭菜園のよくある質問に先生が回答

指導◎川城英夫(元JA全農 耕種総合対策部技術主管) イラスト◎かとうともこQ.べたがけ栽培の効果と使い方を教えてください

 たねをまいた後の畝や作物の上に直接、被覆資材をかけて栽培することを、べたがけ栽培といいます。
 被覆資材は、光をよく通す性質と通気性をあわせもつものが使用されるため、換気が不要です。支柱もいらないため、手軽にかけられることが特徴です。
 ベたがけ栽培に適するのは、草丈が比較的低い野菜で、コマツナなどの葉菜類、コカブやダイコンなどの根菜類、エダマメやラッカセイなどのマメ科野菜です。

〇季節で変わるべたがけ資材の種類

 べたがけに使用する資材は、おもに不織布が用いられます。気温が低い秋から春には、吸湿性があり保温性が高い「長繊維不織」というタイプのものが使用されます(写真1)。

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【写真1】たねまき後に長繊維不織布をべたがけして発芽と初期生育を促す

 気温が高い時期は、害虫や風による被害防止を主な目的として、より通気性が高い「割繊維不織布」(写真2)のほか、防虫ネットや寒冷紗が使われます。

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【写真2】コカブに割繊維不織布をべたがけして栽培。おもな目的は虫害防止

〇べたがけの効果

1.発芽と生育を促す、寒害を防止する

 べたがけはさまざまな場面で使われますが、その一つが保温による発芽と生育の促進です。草丈の低い葉菜類や根菜類に不織布をべたがけすれば、春のたねまきを早めることができます(写真1)。
 また、低温期の野菜の生育促進(写真3)や冬の寒害防止に利用できます(写真4)。

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【写真3】春まきダイコンの発芽と生育促進をするため、長繊維不織布をべたがけ
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【写真4】冬のレタスの寒害を防止するため、割繊維不織布をべたがけ
2.防風・防虫・防鳥

 コマツナなどの葉菜類やコカブやダイコンなどの根菜類は、台風前に防虫ネットや寒冷紗などで茎葉が動かないようにべたがけすれば、強風によって茎葉が折れたり傷つくのを防ぐことができます(写真5)。

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【写真5】台風前に防虫ネットをべたがけしたダイコン。べたがけは台風被害の防止に高い効果がある

 気温が高い時期には虫害が多発しますが、たねをまいたら直ちに割繊維不織布や防虫ネットでべたがけすれば、虫害を防止できます(写真2)。
 エダマメやラッカセイなどマメ科野菜をたねまきしたあと、べたがけをすれば鳥害を防げます。本葉が出たら資材を除去します。

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[投稿]わが家の菜園

読者の家庭菜園の写真とエピソードをご紹介

わが家の菜園1月

あなたが育てている作物をスマホなどで撮影して送ってください!畑やプランターでの栽培の様子、どんなエピソードでも大歓迎。皆さまのわが家ならではの菜園体験談をお待ちしています。

『柿が大豊作』愛知県 キキママさん

今年は柿が大豊作で、300個ほど収穫。
さるかに合戦如く、主人が木に登り実を取り、木の下であれこれ指図する私。
剪定や消毒を主人がやってくれるおかげです。熟した柿で柿羊羹を作ってみました。

『スナップエンドウの防風対策』島根県 とっかさん

定年退職し家庭菜園をやり始めてから10年は経ちました。
当地は日本海からの風が結構強いです。
その為にスナップエンドウには3年前からペットボトルを利用して、写真のように防風対策をしています。 皆さまはどうされていますか。

『長ネギ畑』神奈川県 かよちゃん

腰を折って入れるので年々辛くなりました。

旧年中はたくさんのご応募ありがとうございました。
新年を迎え、どんな作物を栽培しようかな、今年こそ菜園づくりに挑戦するぞ!…など、いろいろ計画中のことと思います。
畑やプランターでの栽培の様子、どんな写真やエピソードでも大歓迎です。
2025年も皆さんの楽しい投稿をお待ちしています。

エプロン編集部より

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料理のポイント

おいしく作る料理のポイントを写真付きで解説

沖縄の伝統菓子を、家庭で揚げやすいよう小さく作ります。黒糖サーターアンダギー

料理◎太田晶子 撮影◎武井優美

1個分:約105kcal 調理時間:約25分(生地を休ませる時間は除く)

材料12個分

  • 薄力粉 150g
  • ベーキングパウダー 小さじ2/3
  • 黒糖(粉) 80g
  • 1個
  • 黒いりごま 小さじ2
  • 2つまみ
  • サラダ油 小さじ1
  • 揚げ油 適量

作り方

  1. 生地を作る

    ボウルに卵を割り入れて泡立て器で溶き、黒糖と塩、ごまを加えて混ぜる。油を加えて、さらに混ぜ合わせる。薄力粉とベーキングパウダーを合わせてふるいながら加え、ゴムベラでムラなく混ぜ合わせてラップをかけ、冷蔵庫で1時間休ませる。

    Point
    ポイント

    ●全体をさっくりと、粉っぽさが無くなるまで混ぜます。

  2. 成型する

    1を12等分にして、手にサラダ油(分量外)を少量つけて丸め、ラップを敷いた皿に並べる。

    Point
    ポイント

    ●ピンポン玉くらいのサイズに丸めます。小さめにして揚げ油を少なく、揚げ時間も短めにします。

  3. 揚げる

    揚げ鍋に油を深さ3cmほど入れて中火にかけ、140℃(菜箸に小さな泡がつく程度)に熱して、2を全量入れる。浮き上がってきたら、時々上下を返して3〜4分揚げる。割れ目ができて良い匂いがし、色づいてきたら1個取り出して竹串を刺し、生地がついてこなければ順に取り出して油をきる。

    Point
    ポイント

    ●140℃の油に生地を入れると、最初は泡も少なく静かですが、やがて浮いてきます。低い温度でゆっくり揚げると、中まで火が通り外側も焦げ付きません。

MEMO

黒糖の香りと黒ごまがアクセントのやさしい甘さのドーナツです。揚げたてをどうぞ。

「食」と「農」のエッセイ

日本ペンクラブ会員の著名人によるリレーエッセイ

第73回 椎名 誠さん
コロッケサンドコッペパン

著者のプロフィールはこちら

 「ゴチソー」というのは年代と世代に大きく関係するものだ、と思っているが、そうなると特出してくるのは、小学生の頃の味だ。
 「コロッケパン」は、ぼくたちの間に頼もしく君臨した。それまで手にした、あまりふくらみのないパンは小さな家庭工場のようなところでこしらえられていたのに違いない。
 コッペパンがあらわれたときは欧米の匂いがしたもんだ。
 小学校近くの通学路に戸板を二枚並べ、少し傾斜をつけた臨時パン屋さんの前にぼくたちは並んだ。未亡人組合主催の臨時店だ。
 未亡人――という意味をぼくたちはよく知らなかった。だらしない行列だったりふざけたりしていると怒られた。学校の先生よりも怖かった。家から弁当を持ってこなかったりした生徒が並んでいたが、コッペパンの真ん中を横一文字に切って、そこにイチゴジャムかバターピーナッツを塗ったものが十五円。おばさんによってそれらの塗りかたに差がある。お客さんである子供らは微妙なそれを見分けて、いくらか厚く塗ってくれるおばさんの前に列をつくる。リーダーのおばさんにそれを発見されて列が正される。タタカイなのだった。
 あるとき、ここにコロッケをはさんだ「コロッケパン」が登場した。大ニュースがかけまわる。コロッケは一ケはさまれて二十円。
 横一文字に切ったコッペパンの真ん中に揚げたてアツアツのコロッケがはさまれている風景は感動的だった。
 五円高くなるけれど、ジャムなどと違って、塗りかたの厚みの差はない(はずだ)。
 ぼくたちは、そこにソースをいっぱいかけてもらうように「おばさん、ソースだぼだぼね」と、しきりに言った。そこでももっぱらジャムの薄塗りのおばさんはソースをちょこっとしかかけてくれない。コロッケコッペパンの上手な食べ方は「アイヨッ」ってわたされたそれを両手の指でつよく押す。中央から端のほうにしっかり押してコロッケをまんべんなくひろげていく。その一心だけに集中した。おたのしみはこれからなのだ。

エッセイは原文のまま掲載しています。

イラスト:はやしみこ

椎名 誠(しいな まこと)

1944年、東京生まれ。作家、エッセイスト。1979年より、小説、エッセイ、ルポなどの作家活動に入る。主な作品は、『犬の系譜』(講談社)、『岳物語』(集英社)、『中国の鳥人』(新潮社)、『黄金時代』(文藝春秋)、『失踪願望。コロナふらふら格闘編』(集英社)、『続 失踪願望。さらば友よ編』(集英社)など。
趣味は焚き火キャンプ、遠くへ行くことで、モンゴルやパタゴニア、シベリアなどへの探検や冒険ものなど、旅の本も多数。
〈公式HP〉https://www.shiina-tabi-bungakukan.com

椎名 誠(しいな まこと)
『思えばたくさん呑んできた』
草思社
日本ペンクラブ

日本ペンクラブとは、詩人や脚本家、エッセイスト、編集者、小説家など、表現活動に専門的、職業的に携わる人々が参加、運営する団体です。
https://japanpen.or.jp/

なるほど全農

食と農についての「なるほど」な情報をお届け

料理の万能選手【砂糖】
甘いだけじゃない
料理に欠かせない砂糖の多様な働き

和食では、さ=砂糖、し=塩、す=酢、せ=しょう油、そ=みその順に調味料を入れますが、なぜ最初に砂糖なのでしょう。それは、砂糖は塩よりも分子が大きいので先に入れないと味が染みにくいことと、食材をやわらかくして、他の調味料の浸透を良くしてくれる働きがあるからです。砂糖は味つけ以外にも、いろいろ役に立つ特性があります。
身近なのに意外に知られていない砂糖の特性に注目してみました。

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 世界で生産される砂糖の70~80%はサトウキビが由来の「甘蔗(かんしょ)糖」で、残りは砂糖大根・ビートとも呼ばれるテンサイが由来の「甜菜(てんさい)糖」などです。日本ではこの2大原料作物の両方が栽培され、北海道のテンサイは寒さに強い作物として、沖縄のサトウキビは台風にも干ばつにも耐えられる作物として、地域の農業に欠かせない存在。製糖業とともに地域産業を支えています。
 砂糖は水によく溶けます。20℃の水では、質量の約2倍(200mlのコップに砂糖約400g)、100℃のお湯では約5倍(同様に約970g)の砂糖が溶けるのです。この「親水性」により、水を抱え込む作用や、抱え込んだ水を離さない作用が起こり、料理の味を引き出したり、食感を良くしたり多様な働きをしています。
 肉に砂糖をもみ込むと、砂糖がたんぱく質(コラーゲン)と水を結び付けて肉をやわらかくします。卵白に砂糖を加えて泡立てると、砂糖が卵白の水を吸収して泡立ちのよいメレンゲになります。果実酒を作るときは氷砂糖を使いますが、これは浸透圧で果実の味と香りを引き出すためです。果物のペクチンも水分と結び付き、とろみが付いたジャムに。すし飯がしっとりやわらかく保たれるのも砂糖の親水性によるものです。さらに、バターやクッキーなど油脂を多く使う菓子は、砂糖が油脂中の水分と結び付くことで、酸化を防ぎ風味が守られています。また、カビや細菌の繁殖に必要な水分を抱え込み利用できなくするので、ジャムやあんこなど砂糖を多く使う食品は腐りにくいのです。
 ふっくらとして焼き色が付いたパン。砂糖がイースト(酵母)の栄養源になり、発酵を促します。焼き色を付けるのも砂糖の性質のひとつです。また、水を加えて煮詰めると温度とともに粘りが出て、シロップ状、飴状、カラメル状へと形状を変化させます。これも砂糖の特性で、菓子作りに利用されています。そのほか少量の砂糖を、ブラックコーヒーに入れるとまろやかになり、酸味の強いトマト料理に入れると酢かどが取れて食べやすくなります。このように、苦みや酸味を和らげる作用もあります。
 砂糖にはたくさんの種類があり、形や色、風味もさまざまです。世界では、砂糖といえばグラニュー糖という国が多い中、日本ほど砂糖の種類が豊富な国はありません。煮物や佃煮には中ざら糖や三温糖、果実酒には氷砂糖、和菓子には和三盆など、これほど砂糖が使い分けられているのは、日本の豊かな食文化の表れともいえます。
 疲れた時に甘いものを食べるとホッとしますが、それは脳がエネルギー源であるブドウ糖を補充できるから。甘くておいしいだけじゃない砂糖の働きを理解して、上手に使いこなしましょう。

参考:砂糖あれこれ(農林水産省)

プロのおすすめレシピ

料理のプロがすすめる旬の食材を使ったレシピ

豚肉のうま味が広がる にんにく風味の濃厚な味トンテキ 粒マスタードソース

料理◎太田晶子 撮影◎武井優美

1人分:490kcal 調理時間:約20分

材料4人分

  • 豚ロースとんかつ用 4枚
  • にんにく 2片
  • 小さじ1/3
  • こしょう 少々
  • 小麦粉 大さじ1
  • サラダ油 大さじ1強
  • A
    • 大さじ2
    • しょう油 大さじ1
    • 粒マスタード 大さじ1
    • ウスターソース 大さじ2/3
    • はちみつ 小さじ1
  • キャベツ 3〜4枚
  • トマト 1個

作り方

  1. にんにくを薄切りにし、Aは合わせておく。

  2. 脂身が手前になるようにまな板に豚肉を置き、3cm長さで4本切れ込みを入れてグローブ型にする。両面に塩、こしょうをふり、薄く小麦粉をまぶす。残りも同様にする。

  3. フライパンに油とにんにくを入れて中弱火で熱し、2の豚肉を並べ入れて3分ほど焼く。途中、にんにくがきつね色になったら取り出す。

  4. 豚肉の周囲が白くなってきて焼き目が付いたら裏返し、さらに2分ほど焼く。焼き油は、少し残してペーパータオルで拭きとる。中火にしてAを周囲から回し入れ、煮立ったらにんにくを戻し入れる。

  5. ひと煮立ちしたら豚肉にタレを絡めて火を止める。皿に盛り付け、せん切りキャベツとくし切りにしたトマトを添え、残ったタレを豚肉にかける。

ココがポイント

豚肉(トン)のステーキを意味するトンテキ。豚肉に切れ込みを入れることで、焼き縮みを防ぎ短時間で中まで火が通ります。

読者のひろば

読者から寄せられたお便り&絵手紙

読者のひろば

お便りはいつでもご応募をお待ちしております。掲載分にはおこめ券を進呈いたします。

かぼちゃは食卓の王様

 10月号のふるさと探訪「なよろ南瓜」を読ませていただきました。素人では、あれ程そろったものは無理ですが、今年初めてかぼちゃを作ってみました。近所へ分けると、「坊ちゃんかぼちゃ」ですか?と言うので、坊ちゃんか嬢ちゃんか定かではないのですが…と言うと大笑い。当誌のレシピを参考に、いろいろ作って楽しみます。かぼちゃは保存がきくので、食卓の王様ですね。
(埼玉県・増田啓子さん)

新米で作りました

 一時の米不足も少しずつ落ち着いてきたので、新米で10月号の今月のおすすめレシピ「だまこ鍋」を作ってみました。だしが新米に染み込んでまぁおいしい。夏が猛暑だったから、こういう秋を感じるレシピの優しい味にほっとさせられます。
(東京都・モモさん)

重要な教科書

 栄養士を目指す娘にとって、エプロン誌は重要な教科書、毎月熱心に読んでいます。主婦歴20年以上、調理師である私にとってもその姿が刺激となって、お互いに食について情報交換をしあっています。この時間は私にとってすごく充実した楽しいものになっています。
(石川県・まつりさん)

  • 佐賀県・綿瀬万由美さん
  • 東京都・三田佐知子さん
  • 兵庫県・山下久子さん
  • 福島県・早田良子さん
  • 埼玉県・野口寿夫さん