第55回 小林エリカさん

コンニャクの観察

 このところ私は専らコンニャクに夢中である。無論、田楽だとか、コンニャクゼリーだとか、食べる方にも関心はあるのだが、最も気になるのはコンニャク糊。
 そもそものきっかけは第二次世界大戦中、学徒動員された女学生たちがつくったという風船爆弾の歴史を調べ始めたことにある。
 風船爆弾なるものは、直径約十メートルの巨大な風船に爆弾をぶら下げたもの。旧日本軍が遥か太平洋の向こうにあるアメリカ本土を直接攻撃するため、考案した秘密兵器であった。太平洋沿岸から約9000発が発射され、実際、アメリカ大陸へ到達したと考えられているのは約1000発だという。
 その風船部分の材料というのが、和紙とコンニャク糊という。
 気づけば私は風船爆弾研究にのめり込み、群馬県甘楽郡下仁田町のコンニャク畑へまで辿り着いていたのであった。そこは、かねてからのコンニャク芋の産地である。風船爆弾づくりのためのコンニャク糊もその地で多くがつくられたという。
 私は上州下仁田屋の神戸重信さんを訪ね、夏には畑を案内してもらい、秋にはコンニャク芋の収穫までさせてもらった。
 はじめて目の当たりにするコンニャク芋。
 その形状(ごつごつとした丸い物体にピンク色の角のような芽がある)や、その茎や葉(斑点模様の茎に羽状の小葉)は、実に驚くべきものであった。
 話しを聞けば、コンニャク芋というのは冬には土から掘り出し、春にはまた埋め、出荷するまでに二年、三年もかかるという。その上、連作障害がおきるからその都度畑を変えなければいけない、という手間のかかりようである。
 そんなコンニャク芋を大量に生産してはコンニャク糊をつくっていた戦時下を思うと、私は奇妙な感慨を抱かずにはいられない。
 私は掘り出したコンニャク芋たちを土産にいただいた。
 ふたつは茹でてミキサーにかけて生芋からコンニャクをつくって食べた(生芋からつくったコンニャクの美味しさよ!)。
 残りのふたつは我が家の植木鉢に植えてみた。
 いまようやく春がやってきて、そろそろピンク色の角のような芽が伸びる頃かと、私は毎日植木鉢を覗き込んでいる。

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イラスト:はやしみこ
小林エリカ

小林エリカ(こばやし えりか)

作家・マンガ家。著書は小説『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(集英社)、『マダム・キュリーと朝食を』(第27回三島由紀夫賞候補、第151回芥川龍之介賞候補)(集英社)、シャーロック・ホームズと家族の生死を描く『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)ほか。

「最後の挨拶 His Last Bow」講談社
「最後の挨拶 His Last Bow」 講談社

2023.07更新