第67回 角野栄子さん

ズルをおいしく!

 くいしんぼうなので、時々食べ物のことを書いたりするから、私は料理上手と思われているらしい。それはまったくの間違い。大抵はズル料理で、それがだいぶ常識からずれているようなので、人は上手という言葉にかえて、なぐさめてくれているのだ。おまけに怠け者ときているので、上等なものなんてできるわけがない。
「今日こそおいしいものを……」と腰を上げても、冷蔵庫を覗くと、中には中途半端なものしか残っていない。仕方なくその半端な野菜を大集合させ、奥の方にある謎の肉(一応賞味期限は見るけど)をいれ、手抜きの出来合い調味料をしのばせ、大鍋にたっぷりの水をいれて煮る。塩などの味付けは一切しない。これさえあれば、怠け者は、おいしいものを手に入れた気持ちになる。上の澄んだスープを取り出し、塩と胡椒で味をつけ、パンをいれ、その上にチーズを乗せて、トースターで焼く。「オニオンスープまがい」になる。食べるだけ取って、味噌をいれれば具沢山の「味噌汁」。野菜が残っていれば取り出して潰し、じゃがいもを卸し金で擦って混ぜ、片栗粉少々を加え、オリーブオイルで周りがカリカリになるくらい焼けば「野菜餅まがい」になる。これにはウスターソースがとても合う。
 ある時、打ち合わせに時間がかかって、お腹が空いたとなった。鎌倉のレストランは閉まるのが早い。「いいです、帰ってなにかいただきます」仕事仲間は遠慮する。お腹を空かせて、帰らせるなんて……どうにかしなきゃ。そこで昨日作ったスープがあったと気がついた。冷凍のご飯をチンして、小さなお丼にいれ、熱々のスープを注ぎ、その上に刻んだキムチと塩昆布とゴマを乗せ恐る恐る差し出した。
「わー、おいしい!」
感嘆の声をあげ、もっと欲しそうに、私を見た。
「ちょっと足りないのが、一番おいしい思い出になるのよ」
私は苦し紛れに、笑い返した。
 私の食生活はこんなふうです。ズル料理は使いっきり料理。結果的にフードロス・ゼロ!
 さて空っぽになった冷蔵庫の掃除でもしようかな。

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イラスト:はやしみこ
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角野栄子(かどの えいこ)

東京・深川生まれ。『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、1970年に作家デビュー。代表作『魔女の宅急便』では、受賞多数。その他『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズ、『イコ トラベリング1948−』等作品多数。2018年、国際アンデルセン賞作家賞を受賞。2023年に「魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)」が開館。

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『イコ トラベリング 1948-』角川書店

2024.07更新

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