第8回 あさのあつこさん

ダイエットあれこれ

 炭水化物抜きダイエット。あれが、どうにも信じられない。いや、わかるのだ。何となくだけれど、ご飯やパンや麺類を食べなかったら痩せるというのはわかる。そこに異を唱えるつもりはない(唱えたくても、それだけの医学的な知識がないのだが)。でも、頭で理解できることと、実行することはまったくの別物だ。わたしだって、年々ぽっこりしてくるお腹を引っ込めたいし、くびれとか弛んでいない二の腕とかには憧れる。身体のパーツを取り換えてくれるというなら、2時間ぐらい列に並んで待ってもいい(炎天下とか豪雨の中でなければ)。ただ、残念ながら取り換えてくれる場所がないので、ぽっこりお腹やだるだる二の腕で我慢している。悪友たち(当然ながら、みんなオバサンだ)もだいたい似たような体形で、「痩せたい」、「痩せねば」が合言葉のようになっている。で、炭水化物抜きダイエット。悪友Aの娘の友達(ややこしい)が挑戦し、3カ月で6キロも痩せたらしい。平均して1月2キロの減り方である。オバサンたちは色めき立った。が、ほんの一瞬で、その興奮は消えた。
 無理だと、誰もが自覚していたのだ。わたしは悪友たちを見渡し、厳かに告げた。
「この世で一番美味しいものは、炭水化物でできている」と。全員が頷く。
 わたしは炊き立てのご飯が大好きだ。おかず無しで2杯はいける。むしろ、ご飯だけをゆっくり、しっかり味わいたい。おかずはそれからで十分。口の中に広がるお米の味は優しくて深くて、染みてくる。身体にというより心に染みてくるのだ。お餅も好き。特に、お雑煮は好き過ぎて夢に出てくるぐらいだ。昆布とスルメで出汁を取り、ほうれん草と蒲鉾と鰹節を載せただけのいたってシンプルなお雑煮は、祖母からの直伝ではあるが祖母のようなコクがまだ出せない。ああ、お米。汝はどのようにも姿を変え、わたしを誘惑する。
「ご飯を断ってまで痩せようとは思わん。それに、ほんまに痩せられるかもわからん」「うちらにウエストがないのは炭水化物のせいじゃのうて、間食のせいだと思う」「いや、年齢のせいじゃろ。年を取ってからはふっくら小太りぐらいがええらしいよ」。悪友たちとわたしは珍しく建設的な意見を出し合い、来月、和食の店にランチに行くことを決めた。

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イラスト:今井夏子
あさのあつこ

あさのあつこ

作家。1954年岡山県美作市生まれ。「バッテリー」で第35回野間児童文芸賞受賞。「バッテリー」全6巻で第54回小学館児童出版文化賞受賞。「たまゆら」で島清恋愛文学賞受賞。著書に「NO.6」シリーズ、「THE MANZAI」シリーズ、「火花散る」「ぼくがきみを殺すまで」「グリーングリーン 」など多数。

「鬼を待つ」光文社
「鬼を待つ」光文社

2019.08更新