第13回 柚木麻子さん

縁もゆかりもないけれど

 月1回のペースで開催している、同級生との子連れホームパーティー。普段は作らない料理にチャレンジする、絶好の機会である。農文協刊行の季刊誌「うかたま」vol.56と別冊「うかたま」の「米のおやつともち」にそれぞれ紹介されていた郷土料理を3つ作ってみることにした。甘辛いくるみを入れた新潟発祥の太巻きずし、言わずとしれた山形のいも煮、鳥取で生まれた「いもぼた」なるサツマイモのおはぎである。前述の地域にルーツがあるわけではなく、本物を食べたわけでもない。なんとなく郷土料理というものは神聖な気がして、その土地に行くか、出身者に作ってもらう以外で、味わう方法はないと思い込んでいたのだが、体当たりで作ってみてもいいのではないか。
 そうと決まれば、材料を買い集め、干瓢や乾しいたけを水に漬けた。新潟出身の友達にLINEでどんな味なのか聞きながら、くるみを甘辛く煮た。里芋と牛バラ肉を鍋に放り込んだ。乾物を煮ていると、自信たっぷりの旨味が家中に漂い始める。当日はもち米を炊き、サツマイモをふかして砂糖と潰し、すりこぎでつき、塩を混ぜたきな粉をまぶした。海苔に酢飯を広げ、厚焼き卵、干瓢、くるみ、紅生姜、ほうれん草、しいたけを巻き込む。
 お重に詰めてパーティーに持って行くと歓声が上がり、どんどん料理がはけていく。みんな私同様に、くるみ入り太巻きもいもぼたも初めて食べたという。一人だけ配偶者の実家で芋煮を食べたことがあるといい、私のものとは若干違う、あっちはカツオ出汁だった、と言っていた。芋煮一つとってみても、作り方は家庭によって千差万別だ。つまり正解はないのだから、縁もゆかりもなくても作ってみる自由はある。いつもの食卓で、まだ知らない土地に思いをはせることは可能だ。例の新潟出身の友達から届いた「甘辛いくるみ、うまかっただろう?」というLINEを見て、今度是非、彼女の実家の味を食べてみたいと思ったのである。

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イラスト:今井夏子
柚木麻子

柚木 麻子(ゆずき あさこ)

1981年東京都生まれ。2008年、「フォーゲットミー、 ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞しデビュー。2010年に同作を含む『終点のあの子』を刊行。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞受賞。ほかの作品に『嘆きの美女』『ランチのアッコちゃん』シリーズ、『伊藤くん A to E』、『本屋さんのダイアナ』、『BUTTER』、『デートクレンジング』、『マジカルグランマ』など。

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2020.01更新