第17回 片川優子さん

20年後も日本に田んぼはあるか

 数年前、結婚を機に、関東から岐阜に移り住んだ。
 その頃は、作家として活動しながら、獣医師として岐阜市内の動物病院で働いており、職員駐車場は田んぼのど真ん中にあった。関東で生まれ育った私にとって、季節によって表情を変えていく田んぼの姿はとても魅力的だった。

 冬は稲も刈り取られ、ゴミまで捨てられてしまい、寂しい姿になっていた田んぼが、春の訪れが近づくとともに手入れされ、耕され、肥料をまかれて、息を吹き返す。
 水を張った田んぼを初夏の太陽が照らす様は、本当に美しい。
 ゴールデンウィークが明けた頃に一斉に田植えが行われ、梅雨の雨や夏の太陽を浴びて稲はぐんぐんと背を伸ばし、緑の色を濃くしていく。
 春の次は初夏であり、そのあと梅雨が訪れてから夏になる、そんな考えれば当たり前のことも、岐阜に来てから初めて肌で感じた。
 秋になり、文字通り黄金色に輝く稲穂もまた美しい。スズメたちが嬉しそうに落穂をつつくさまは愛らしく、何時間でも眺めていられる。

 きっとこの風景を当たり前に思って育った人にとっては、なんの変哲もないありふれた景色なのだろう。大人になってこの風景を美しいと感じられるのなら、私のコンクリートまみれの幼少期もなかなか悪くない、ような気もする。

 今年3月に岐阜を離れ、お隣の愛知に引っ越した。引越し先は市街地で、周りに田んぼはあまり多くない。今年一歳の娘は、将来田んぼを見てはたして何を思うのだろうか。そもそもこの子が成人する頃、日本にまだ田んぼは残っているのだろうか。
 次々と売られ、集合住宅に変わっていく田んぼを見ながら、ふと思わずにはいられない。

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イラスト:今井夏子
片川優子

片川 優子(かたかわ ゆうこ)

作家、獣医師。1987年東京都生まれ。2004年に、15歳で第44回講談社児童文学新人賞に最年少で入選。翌年、受賞作『佐藤さん』で作家デビュー。作家として精力的に活動を続けながら、幼少期からの夢を叶えるため、獣医学部に入学。その後博士課程に進学し、獣医学の博士号を取得。2018年に出版した『ぼくとニケ』が、第65回青少年読書感想文全国コンクール課題図書に選出される。
2020年3月、愛知県一宮市に夫と「おおい動物病院」を開院、副院長となる。

「焼け跡のハイヒール」 祥伝社
「ぼくとニケ」
講談社

2020.05更新