【宮城県名取市】

爽やかな香りと歯応えが抜群 仙台せり

文◎編集部 撮影◎磯野博正

せりは春の七草に数えられ「古事記」や「万葉集」にも記述がみられる日本原産の作物です。
宮城県名取市での栽培の歴史は古く、約400年前にさかのぼります。
名取川の伏流水がわき上がる上余田かみよでん・下余田地区では、豊富な地下水を利用して栽培が行われ、「仙台せり」のブランドで市場の高い評価を得ています。
根っこの部分まで丸ごと食べる「せり鍋」が仙台名物として全国的に知名度がUPするなど、今、大注目のせりを取材しました。 

寒さで育まれる味わい

生産者の大内繁徳さんと奥さんの恵美子さん

 宮城県のせり生産量は全国でもトップクラス。なかでも名取市の「仙台せり」は県内生産の約8割を占めています。地元では伝統野菜のひとつとして、お正月の雑煮やそば、うどんに欠かせない食材。もちろん鍋には当たり前のように使っていたため、ここ数年の「せり鍋」ブームに驚きを隠せません。
「正直、びっくりです。でも本当にうれしいです。仙台せりは茎の太さと根っこの太さが自慢です。根、茎、葉とそれぞれ違う味と食感が楽しめるので、丸ごと味わっていただくのがおすすめです」と、JA名取岩沼増田支店の伊深祐太朗さん。
 せりの名前の由来は、競(きそ)うように葉が伸びる「競(せ)り」からともいわれています。それだけ生命力が強く真冬でも収穫され、8月下旬から翌年の4月下旬までの長期間出荷されます。
「冬場のせりは、根っこの甘味や香りが特に豊かで美味しくなります」と教えてくれたのは、JA名取岩沼 下余田芹出荷組合の生産者、大内繁徳さん。

地下から伏流水を汲み上げて流します

 冬枯れの田畑が広がる中、緑の絨毯を敷き詰めたような青々とした姿をみせているのがせり田。せり栽培には清らかな水が欠かせませんが名取川の伏流水を汲み上げて田んぼに流しています。
「50年位前から地下100メートルからポンプで汲み上げて流しています。年間を通じて水温が12~13℃くらいあるので、せりを寒さと暑さから守ってくれます」と、ゴム胴長をはいて腰まで水に浸かりながら収穫作業を行う大内さん。
「根っこがしっかり張って収穫しやすくするために、有機質の堆肥をたっぷりまぜて土づくりします。土が硬いと引き抜くときに根が切れたり、結構な力が必要になるので、柔らかくしておくことが大切」とのこと。

種せりからランナーを伸ばして苗を育てます

 せりは種からでも育てられますが、仙台せりは種せりからランナーを伸ばして苗を育てて植えつけます。
「冬場は65日程度、夏場は35日程度で、30~40cmまで伸びたせりを収穫します。冬場は凍結防止のために、せり田の上にシートをかぶせたりして保護します。また、鴨などの鳥が食べに来るので防鳥ネットを張ったりして被害を防ぎます」と、大内さん。
 根に近い茎の太い部分を狙って食べに来るというので、鴨も美味しいことをよく知っているようです。

名産品を後世まで伝えていく

腰まで水に浸かり、地下水を使って根っこの泥を落とします
一株ずつ丁寧に選別作業。根気と熟練の技が必要です

 田んぼから収穫したせりは、すぐ近くにある納屋で地下水を使って洗浄します。ここでも腰まで水に浸かっての作業。さらに作業場に運んで、1株ずつ黄色くなった葉や茎を丁寧に取り除いて選別、100gずつ束ねて、箱詰め、出荷となります。水の中での手作業が多く、手間ひまかけて生産するため、高齢化で生産をやめてしまう農家も多いといいます。そんな中、同芹組合では10年ほど前から地元小学校の総合学習の一環としてせり田の見学を受け入れ、食農教育を行うなどして仙台せりの食文化を後世まで伝える努力をしています。

【写真左】集荷場では生産者自らが厳しく品質チェック

「クセのある野菜は子どもが苦手なので、どうかなぁと思っていましたが“美味しかったよ”という声が多くて、本当にうれしかったですね」と、満面の笑みの大内さん。
 葉と茎の爽やかな香りと甘み、シャキッとした歯応え、滋味あふれる根っこと、それぞれの美味しさが楽しめます。おひたしや和え物、天ぷら、混ぜご飯、鍋など、風味を活かしたシンプルな料理がおすすめです。

●JA名取岩沼
【仙台せり】 生産概要
生産者数 : 約60名
栽培面積 : 約16ヘクタール
出荷量 : 約300トン
主な出荷先 : 県内、東北、関東、北海道など

「豊かな香りと食感を楽しんでください」と、JA名取岩沼の伊深祐太朗さん

2018.01更新