こだわりの新ブランド誕生

大分県内でも有数の甘藷(サツマイモ)産地、豊後大野市。穏やかな気候と阿蘇山の火山灰が蓄積した赤土と黒土の混ざった土壌は甘藷栽培に適し、50年以上もの歴史ある産地です。しかし今から20年くらい前、高齢化により栽培面積は減少し、販売単価も安く、生産が低迷していました。そんな状況のなか、救世主となったのが「甘太くん」です。

「県で統一した新しいブランドを作ろうと、糖度が高く食感が滑らかな『九州143号』という新品種を導入し、2005年から試験栽培を始めました。甘藷は貯蔵すると甘みが増し美味しくなるので、貯蔵期間や糖度検査など出荷基準を定めて、品質チェックに合格した畑の甘藷だけを『甘太くん』の商品名で出荷しています」と、JAおおいた豊肥事業部営農部園芸課 豊後大野班の佐田 望さん。
「甘太くん」は一般公募から誕生した名前で、JA全農おおいたが2008年に商標登録しました。また、「九州143号」は2010年に「べにはるか」の名前で品種登録され、宮崎や茨城などでも栽培されています。既存の品種より食味や外観が「はるか」に優れていることからこの名前がつきましたが、さらに手間ひまかけて味にこだわったのが「甘太くん」です。

試験栽培当初から作付けをしているJAおおいた「甘太くん」部会の佐藤勇夫部会長は「10月が収穫最盛期です。べにはるかは皮が薄いので掘り取り機で土を掘り起こした後、キズがつかないように丁寧に手作業で掘り上げます。選別をしながらコンテナに詰めて3日程度畑に置いて乾燥させた後、専用の貯蔵庫に入れます。貯蔵庫の中は常に13~15℃、湿度85~95%に保ち、40日以上経って糖度がのったいもから順次出荷します」と、説明してくれました。
貯蔵して甘みが増した「甘太くん」は焼いもにすると蜜がにじみ出て、驚くほどの甘さとしっとり感を味わえます。
生産者の意識改革で品質統一

5~6人による試験栽培から始まった「甘太くん」ですが、現在の生産者数は135人にも上ります。「タバコ栽培から転換した生産者が加わり増えました。そこで、品質にバラつきが出ないよう、全員が品質低下などを引き起こすウイルス感染していないウイルスフリー苗を採り入れて品質の均一化をはかりました」と、佐藤部会長。通常、甘藷栽培は種いもから生産した苗を植えつけますが、甘太くん部会の生産者は、県の試験場で組織培養したウイルスフリー苗を親株にして、JAと生産者が協力して増殖させた苗を植えつけます。
「苗の購入費がかかるため、初めはなかなか導入してくれなかった。みんなを説得して100%ウイルスフリー苗にするのに3年かかったよ」と、当時を振り返る佐藤部会長。今では生産者が交代で苗づくりに参加するそうです。高い品質をみんなで保ち続けようという生産者の団結力がブランドを支えています。

親しみやすい名前とこれまでにない甘さと食感が好評で、国内だけでなく香港を中心に輸出もされ海外でも注目されています。「市場関係者の評価が高かったり、消費者から直接”美味しかった”とほめられたりすると嬉しいじゃない。もっといいものを作ろう、上を目指そうって前向きになれる。特別な思いのあるいもだから、これからもブランドを守る努力をしていきたい」と、締めくくってくれた佐藤部会長。
この10年で一躍人気ブランドとなった「甘太くん」は、11月下旬から翌年4月頃まで出荷されます。甘くてしっとりとした食感が抜群に美味しく、焼いもを冷凍にすると「ソフトクリームのような味わいになっておすすめ」だそう。アツアツでも冷たくしても美味しい「甘太くん」をぜひお試しください。
●JAおおいた
【甘太くん】生産概要(JAおおいた甘太くん部会)
生産者:135名
栽培面積:128ヘクタール
生産量:約2760トン(2018年実績)
主な出荷先:関西、九州(輸出:香港、東南アジア)
