ひとつの種芋から収穫できるのはひとつだけ

板こんにゃく、糸こんにゃく、玉こんにゃく…。おでんにすき焼き、おせちの煮しめ、刺身こんにゃくなど、こんにゃくは様々な形に加工され、私たちの食卓に登場する馴染み深い食品です。
「こんにゃくの原料となるこんにゃく芋は病気や寒さに弱く、とてもデリケートな作物です。この辺りは水はけの良い土壌と、周囲の山に強風が遮られて冬でも温暖な恵まれた環境にあり、栽培面積をもっと広げていきたいと若手の生産者が積極的に取り組んでいます」とJA甘楽富岡の黛尚哉さん。こんにゃく芋は生子(きご)と呼ばれる種芋を植えつけて収穫できるまで2~3年かかります。5、6月に植えつけ、10月から11月に掘り上げた1年目の芋は貯蔵庫で保存します。翌年貯蔵していた芋を植えつけ、掘り上げた芋は、同様に翌春まで保存するか、大きく育った芋は2年目で出荷します。このとき、親芋の側面についた生子を種芋用に収穫します。ひとつの生子からこんにゃくが作れる大きさに育つ芋はひとつだけ。手間と時間がかかります。
「面積を広げるためには機械化は不可欠ですが、植えつけと収穫には人手がかかります。芽の向きまで考えて植えます。掘り上げは機械でしますが、生子を切り離すのは手作業です。腐敗病にかかった芋に触れると感染が広がってしまうので、植えつけ、収穫のたびに病気や傷みが発生しないようひと玉ずつ慎重に扱います」と黛さん。栽培している主な品種は「あかぎおおだま」と「みやままさり」。
「『みやままさり』は2005年に登録された比較的新しい品種で、粘りが強く、こんにゃく粉にする際の歩留まりも良いのが特徴です。病気にも強く、芋の形状が球形のため機械での収穫にも向いているため、生産量が増えています」とのことです。
若手の力を結集してチャレンジ

「こんにゃくは土づくりが全て。7割は畑の力で3割を人間が手助けするだけです」と話すのは、JA甘楽富岡こんにゃく部会長の須賀昭浩さん。就農して15年、約10ヘクタールの畑でこんにゃく芋を栽培しています。須賀さんはJA甘楽富岡とJA碓氷安中の20~50代の若手生産者でつくる「Team West(チームウエスト)」の会長でもあります。
Team Westは、若手生産者同士で情報交換や勉強会の場を作ろうと組織され、県の技術普及員や試験場の研究者、JAなど関連機関が連携してサポートしています。Team Westが管理する試験ほ場では、新品種や肥料による比較、病害や雑草対策など区画を分けて試験栽培した芋を掘り取り、結果を検証していました。
「土を細かくサラサラにし、水はけを良くすることがポイントです。植えつけるまでに4回は耕うんして、植えつけの間隔や肥料の入れ過ぎにも注意します」と須賀さん。
「Team Westが結成されて5年目。若手同士、個々の知識を交換しながら、柔軟にいろいろなことに挑戦できる場です。今は1年目の芋を堀り上げずにそのまま越冬させる栽培法の確立を目指しています。それができれば保管施設が不要になります。さらに、温暖なこの地区の強みを生かして1年早く出荷できれば、収益も早く上げられます」。地元の特産品のこんにゃくを「より多くの人に発信していきたい」と須賀さんは語ってくれました。

こんにゃくの製造は、生芋を乾燥、製粉した精粉(せいこ)を使って作るものが主流となっていますが、もともとは生芋をすりおろして作られていました。その生芋こんにゃく一筋の加工所が「マヤマ農園」です。洗った芋を蒸して皮ごとすって水で溶き、水酸化カルシウム(凝固剤)を加えて練ってゲル状にし、型に入れます。「70~80℃のお湯で6~9時間かけてゆっくり炊き上げるとねばりが出て食感が良く、美味しく仕上がる」と専務の瀬間勝美さん。
出来たての生芋こんにゃくをいただくと、香りと歯切れのよさが際立つ美味しさでした。昔ながらの練り方が生み出す不均一な気泡がこんにゃく独特の臭みを消し、味をしみやすくするそうです。
ダイエットや整腸作用、美肌効果も期待できることから、欧米や韓国などでは、「Konnyaku noodles」、「Shirataki noodles」と話題となり、さまざまなレシピが紹介されているようです。煮物や炒め物だけでなく、新たな視点でこんにゃくを味わってみるのもいいですね。
(取材:2019年11月下旬)

●JA甘楽富岡
【こんにゃく】生産概要
生産者:約100名
栽培面積:約170ヘクタール
生産量:約4,500トン
