ハウスから露地へバトンタッチ

森林資源が豊富な岩手県では明治時代から原木しいたけの栽培が盛んに行われてきました。しいたけ栽培に使われる原木を山から切りだして乾かし、一定の長さに切りそろえます。それにドリルで穴をあけてしいたけ菌を植えつけたものを「ほだ木」といいます。そこから約1年を経て菌が全体に回り、「用役ほだ木」となります。これをハウスや山林に組んで並べ、しいたけが生えるのを待ちます。
「うちでは1年目と2年目のほだ木はハウスの中に並べて管理し、3年目以降は森の中のほだ場に移します。太いほだ木からは肉厚のしいたけができるので、以前は直径25~30cmくらいあるほだ木を使いましたが、1本60kgもあるので山から下ろしたり上げたりの運搬が大変で、最近は20cmくらいのほだ木を使っています」と、生産者の小原和也さん。
現在、ハウス5棟と露地のほだ場2へクタールで約3万本を管理。毎年3000~5000本に植菌をして新しいほだ木作りを行います。

【写真右】日射量が管理された森の中のほだ場
「原木しいたけは春と秋が収穫シーズンです。夏場に散水をたっぷりしてきのこの芽づくりをすると、翌春の発生量が多くなります。冬場はハウス内温度をマイナス5℃以上10℃以下に管理してゆっくりじっくり生長させることで大きくて肉厚になります。しいたけの傘は白くてきれいに亀裂が入るのが理想です。でも、温度や湿度が上がってくるとあっという間に傘が開いて黒くなってしまう」のだそうです。乾しいたけの種類の「冬菇(どんこ)」と「香信(こうしん)」の違いは傘の開き具合で、その年の気象条件によって大きく左右されます。
露地のほだ場では、より自然環境の影響が大きく、森の木の枝を落として日射量を調整するなど手がかかります。収穫のピークは5月で、順次、乾燥機に入れて24時間乾燥させて仕上げます。

【写真右】軸が太く、内側のヒダも白くてきれい
抜群の歯ごたえと風味

小原さんはもともと米やりんごを作っていて、乾しいたけの栽培は15年前にお兄さんから受け継いだそうです。
「継いでから3年目と4年目に全農乾椎茸品評会で農林水産大臣賞を受賞して、さあこれからだと勢いがついたときに、東日本大震災で6万本近くあったほだ木を全量廃棄処分することになりました。いいものがとれる自信があっただけにショックが大きく本当に悔しかった。この辺りでは高齢者が多いこともあり震災で栽培をやめてしまった農家が半分近くいたけれど、うちは震災前と比べてなんとか6割近くまで復活することができました」と、小原さん。震災により自ら切り出したほだ木ではなく、全量を購入したときもありましたが、モチベーションを高めるため品評会に出品を続け、昨年は林野庁長官賞を受賞するなど高い技術力には定評があります。現在、JAいわて花巻の菌茸生産部会の副部会長を務めるなど、管内全体のレベルアップにも貢献しています。
「木の栄養をたっぷり吸い込み、うま味が凝縮されている乾しいたけは、肉厚で身がしまり、弾力のある歯応えと風味が抜群です。ビタミンDや食物繊維などの栄養も豊富なので、ぜひ、一度使って美味しさを実感してください」と、JAいわて花巻石鳥谷支店営農課営農指導係の石川 南さん。
美味しさがギュッと詰まった乾しいたけと戻し汁には世界が認める「UMAMI」がたっぷり詰まっています。和食はもちろん、ピザなど洋風にも使えるので、バリエーションを広げて楽しみましょう。
●JAいわて花巻
【乾しいたけ】生産概要
生産者:約60名
原木伏せこみ:約4.3ヘクタール
生産量:約3.6トン(2019年度実績)
