【茨城県結城市】

冬の食卓を支える 白菜

文◎来栖彩子 撮影◎磯野博正

鍋物に、漬物に、冬の食卓に欠かせない「白菜」。
一年を通して出回る定番野菜ですが、日本での栽培の歴史は意外に浅く、明治時代に中国から渡来して栽培が始まりました。
全国一の生産量を誇る茨城県では、関東ローム層の広がる畑作地帯で栽培が盛んです。
「菜黄味(なおみ)」のブランドで知られる県内トップクラスの白菜産地、JA北つくばを訪ねました。

ブランド白菜「菜黄味(なおみ)」

「菜黄味は格別ですよ」と、生産者の濱野公男さん、妻のさと子さん、息子の景一さん

 白菜はもともと内側の芯が白いことで「白菜」と呼ばれていました。今では半分に切ったときの色の美しさと味の良さから、内側の葉が黄色い黄芯系が主流となっています。
 茨城県北西部に位置する結城市は、ユネスコの無形文化遺産に登録されている日本最古の絹織物「結城紬」のふるさと。そして、黄芯系のブランド白菜「菜黄味(なおみ)」の主産地です。
「『菜黄味』はJAグループ茨城のオリジナルブランドです。霜があたる11月下旬になると黄色味が増してやわらかく、甘みが強くなり出荷が始まります」と、JA北つくば西部営農経済センター営農販売課の相澤真之さん。
 秋冬白菜の収穫は10月から始まり3月いっぱいまで、次いで春白菜が5月まで続きます。ブランド白菜の菜黄味は11月下旬から寒さでより甘さが増す年明けが最盛期。市場からは”結城の菜黄味を”という指名も多くあるそうです。
「この地区は1軒あたりの栽培面積が平均5ヘクタールと規模の大きい生産者が多いです。高齢で栽培をやめてしまう方もいる一方で、その畑を引き受けて後継者に繋げている生産者も増えています。質の高い白菜をお届けするために、葉の締まり具合などの収穫適期の見極めや、収穫の仕方、選別・箱詰めなどを、しっかり統一して出荷しています」。

寒さにあたるほど甘みが増す

 種まきから苗を育て、植えつけてから収穫まで約60日。越冬する晩生のものは90日。畑では、見るからに重量感のある白菜が1玉ずつ包丁で収穫されていきます。1玉3.5kgが主体です。
「株元が大きく膨らんでいるので、収穫するときに削り取らないよう、白菜切り専用の包丁を使います」と話すのはJA北つくば結城園芸部会の秋冬白菜部の部長を務める濱野公男さん。白菜栽培歴約35年のプロフェッショナルです。秋冬白菜をメインに春白菜、夏のとうもろこしを約30ヘクタールの畑で家族3人と雇用スタッフ、外国人実習生との総勢13名で栽培しています。

刃先がカーブしている専用の白菜切り包丁

 最盛期には霜が溶ける時間から日暮れまで収穫します。その傍らでは、出荷用のダンボールが機械で組み立てられ、白菜を詰めた箱はフォークリフトでトラックの荷台へ、荷台がいっぱいになると畑からJAの集荷所へと、全ての作業が手際よく進んでいきます。自家用の4トントラックで畑と集荷場を10往復し、1日2000箱を出荷します。
 秋冬白菜の収穫と並行して春白菜の植え付け作業、春白菜の収穫時期にはとうもろこしを準備し、夏の猛暑のなか、とうもろこしの収穫最盛期と秋冬白菜の植え付け準備にと休む間もなく作業が続きます。白菜ととうもろこしは土壌バランスの相性が良いそうです。
 大規模栽培で機械化が進んでいると思いきや、種まきから収穫まで、白菜に触れる作業は全てが手作業とのこと。「植え付けに機械を使ったこともありましたが、どうしてもロスが出てしまう。手作業が確実なんです」と、濱野さん。

収穫したての白菜が速やかに集荷場へ運ばれます

 12月に入ると外葉を白菜の上部で縛り越冬させます。「縛るのは寒さよけです。手間はかかるけど、白菜は自分に蓄えた『でんぷん』を『ショ糖』に変えて凍らないようにすることで甘みを増します。外葉は枯れていても中の白菜はみずみずしいままです」。
 白菜はうま味成分のグルタミン酸が豊富で、水溶性のビタミンやカリウムも多く含まれます。「味噌汁にして食べることが一番多い」という濱野家。甘みとうま味が溶け出して、栄養を余すことなくいただける味噌汁は理にかなっていますね。
 生や漬物、炒め物でシャキシャキと、煮込めばとろり。鍋物はもちろんのこと、和洋中のどの料理にも馴染みおいしさを発揮する白菜。冬のおいしさを丸ごとたっぷり召し上がれ。

収穫後も生長を続ける白菜。選ぶときは切り口がみずみずしいものを

●JA北つくば
【白菜】生産概要
生産者:約130名
栽培面積:約350ヘクタール
生産量:約180万箱(1箱13kg)
主な出荷先:関東

「今シーズンは天候に恵まれ、特においしく育っています」と、JA北つくば西部営農経済センターの相澤真之さん

2021.01更新

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