11月から翌年6月まで長期出荷

「にこにこベリー」は宮城県の農業・園芸総合研究所が12年の歳月をかけて開発。県育成品種の「もういっこ」と栃木県発祥の「とちおとめ」を掛け合わせ、3万粒の中から選ばれた奇跡の1粒といわれ、「震災を乗り越え、作る人、売る人、そして食べた人、全てがその美味しさに笑顔になれる、みんなに笑顔を届けたい」との思いから、名付けられました。
「色が鮮やかで形もきれい。香りがよくて酸味と甘味のバランスもいいとても美味しいいちごです。果実がしっかりしているので輸送性に優れ、日持ちがいいのも特長です」と、JAみやぎ亘理中部営農センター亘理山元いちご選果場の宍戸拓貴さん。2018年から試験栽培が始まり、2019年秋にデビュー、2020年から本格出荷されています。

「JAみやぎ亘理管内の品種の栽培割合は”もういっこ”が約70%で”とちおとめ”が25%、残りが”にこにこベリー”などですが、将来的には”とちおとめ”に代わる品種として作付けの50%までに増やしたい」とのこと。早生種の「にこにこベリー」は年内の収量が多いこともありクリスマス需要期に出荷でき、晩生種である「もういっこ」と生産のバランスがうまくとれるというのも理由のひとつです。JAみやぎ亘理管内の出荷は11月から翌年の6月までと長期間。なかでも、3~4月が品種も重なり出荷のピークとなります。
ICTを活用した養液栽培

40年以上、稲作といちごの複合経営をしていたという生産者の鈴木誠一さん。震災で家も畑も失い、引退しようかと思っていたところに整備された大型いちご団地での栽培の話がありました。
「いちご団地は最新鋭の設備を備えた養液栽培なんですよ。ずっと土耕栽培(土の畑)だったので、一から勉強してやり直す自信がなかった」という鈴木さん。そんな鈴木さんの背中を押したのが息子からの「俺が継ぐよ」の一言でした。
「脱サラして3年前からいちご団地で栽培しています。ハウス内の温度・湿度などはICTで管理され、スマホで確認できるので、逆に入りやすかった。親父のように長年の経験と勘に頼る栽培では後を継ぐのは難しかったですね」と、息子の亘さん。当初は「もういっこ」と「にこにこベリー」を栽培していましたが、2年前から「にこにこベリー」だけに。
「1品種にしぼることで管理がしやすくなりました。それに、にこにこベリーは採れ始めが早く、多収で、ケーキなどの業務用も期待できるので、収入面でもやりがいがある」といいます。

にこにこベリーは11月上旬から収穫が始まり、ちょうどクリスマス需要期に最初のピークを迎え、3~4番果の2~3月頃が2度目の出荷のピークです。収穫したいちごは選別して、親子3人で丁寧にパック詰め。亘理町と山元町共同の集出荷施設「亘理山元いちご選果場」に出荷する毎日です。製菓向けの業務用に出荷するものは小玉でもよいので摘果作業をせず収穫するそうです。

「最盛期には1日6万パックものいちごが出荷されます。農家数と栽培面積は震災前の5割程度ですが、販売額は9割まで復活しました。高設ベンチの養液栽培で腰の位置で収穫できるので身体への負担が少なくなったことやICTによる管理などで収量が上がりました。また、若い生産者が増えてきています」と、JAみやぎ亘理の宍戸さん。
「手をかけた分の成果が一目瞭然だし、会社勤めの頃と違いストレスフリーなのもいい」と、農業の魅力を語ってくれた亘さん。若い生産者たちで勉強会も開催しているそうです。
いちご産地再生に向けた歩みが続く宮城の主力品種として期待される「にこにこベリー」。
にこにこ笑顔のパッケージが目印です。ぜひお試しください。

(取材:2020年2月下旬)
●JAみやぎ亘理
【仙台いちご】生産概要
生産者:約197名
栽培面積:約53ヘクタール(内いちご団地大型ハウス40ヘクタール)
出荷量:約2400トン
主な出荷先:県内、北海道、京浜市場

(※)宮城県商標登録