【静岡県富士宮市】

富士の雄大な自然に育まれた 牛乳

牛乳・乳製品の原料となる生乳は酪農家が大切に育てた乳牛から、毎日、搾られています。
富士山西麓の朝霧高原では、涼しい気候と広大な草地、都心に近いなどの好条件から酪農が盛んです。
1952年に長野県からこの地に入植して酪農を始め、放牧によりのびのび牛を飼い、生乳の品質にこだわり続けている「富士丸西牧場」を訪ねました。

放牧でストレスフリー

スタッフである「家族」と一緒に。後列右端が佐々木剛さん、前列左が奥さんの千尋さん
 太平洋戦争後の1948年に130人ほどが入植して朝霧高原の開拓事業が始まりました。酪農振興指定地域として大規模な牧草地の改良工事なども行われ、現在は44人ほどが酪農を続けています。
 富士丸西牧場の佐々木剛さんは入植三代目として経営を引き継いでいます。
「入植した当初は水もない溶岩地の原野で、牛をロープで繋いで野草を食べさせていたそうです。それから放牧を主体に酪農を続けています。牛はやっぱり土の上が一番で、どんな日でも喜んで外に行きます。外にいるとのんびりして、ストレスがないので牛もきれいで穏やかです」と、佐々木さん。また、「牛はグルメで美味しい草しか食べない」のだとか。「酪農は土・草・牛が基本」という両親からの教えを守り、土づくり、草づくりを大切にしています。
「親からは”好きなようにやれ”といわれて引き継ぎましたが、やみくもに規模拡大をするのではなく、牛の動きや機械の動きなどを考え、効率よく作業ができることを優先に、牛舎を建てました。毎日同じように飼うことを基本にして、作業時間やエサを同じようにすることで、いつもと違うところがあればすぐに感じとれます」といいます。

いろいろな作業が効率よくでき、牛が自由に歩き回れる構造の牛舎
 朝と夕方の1日に2回、搾乳をします。牛は搾乳の時間になると自らミルキングパーラー(搾乳施設)に入ってきます。ミルカーを着けて搾乳するとき、牛たちの健康状態を確認するそうです。
「搾乳作業には必ず入るようにして、一頭一頭、中に入ってくる様子や毛艶、目つき、反芻(はんすう)しているか、乳量はどうか、足の感じや糞の状態などを観察します。従業員とも牛の状態について情報交換をする非常に大事な時間です。気になるところがあればすぐ対応します。朝に意見を出し合って、実行して、早ければ午後にはその結果がわかるというのは、少人数の個人経営だからこそのよさだと思います」と、佐々木さん。
 また、奥さんの千尋さんによれば「主人は、うちで生まれた牛はおばあちゃんになるまで面倒をみたいって。赤ちゃんから育てるので、子育てと一緒で愛情がわいて『娘たち』って呼んでいるほどです」とのこと。
 千尋さんは従業員も家族と呼び、家族が働きやすく、楽しく仕事をしてもらえる環境づくりと、コミュニケーションを大切にしています。「働く人が楽しく元気でないと、牛も元気に過ごせないでしょ」というのがその理由です。家族がやさしく牛と共に生きています。

【写真右】牛に目を配る搾乳作業
スクスクと育つ「娘たち」。おばあちゃんになるまで面倒をみます

こだわりの牛乳を学校給食に供給

 牛乳本来の風味にこだわる佐々木さんは、「子どもたちに100%富士宮産の牛乳を飲ませてやりたい」という思いから、地域の酪農家と2016年に「富士の国乳業株式会社」を設立し、良質な生乳のみを使って学校給食へ供給。富士宮の酪農家が作った安全安心で美味しい牛乳を飲んで、その牛乳の物語を知ってもらいたいと食育にも努めています。
「うちの牧場は国道沿いに放牧地があるので、子どもたちが牛を見ていて、給食の牛乳はあの牛からだとすぐにわかるんです。学校の先生から”牛乳が飲めない子でもこの牛乳なら飲める”という話を聞くと本当にうれしいです。
 夢だった学校給食への供給でしたが、昨年はコロナ禍で全国休校により一時生産停止に。悔しい思いをしましたが今が踏ん張りどころ。今後はヨーグルトの加工を増やすなど、牛乳づくりに馬鹿正直な酪農家の思いをもっといろいろな形にしていきたい」と、前向きな佐々木さんです。
 富士山麓の雄大な自然の中で受け継がれる酪農業。富士丸西牧場は2019年の第37回全農酪農経営体験発表会で最優秀賞、翌20年の農林水産祭で内閣総理大臣賞を受賞する快挙を達成しました。「これまでやってきたことを認めていただいて、自分も従業員も励みになっています」と喜びをかみしめます。
 6月は牛乳月間です。牛からの恵みに感謝し、牛乳・乳製品を食卓にとり入れていきましょう。

●富士丸西牧場
【牛乳】生産概要
飼養頭数:約100頭(経産牛)
年間出荷乳量:約1100トン
※富士の国乳業の商品をオンラインで購入できます。
https://fujinokuni.shopselect.net/

2021.06更新

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