農山漁村の定住願望が急増【田園回帰】

自分らしく暮らし、働く場、
「半農半X型」で若者の田園回帰に拍車がかかる

今、都市部から農村部へ移り住む「田園回帰」の動きに注目が集まっています。
内閣府の世論調査(2014年)では、20代男子やファミリー世代に田園回帰志向が強まっているという興味深い結果がでています。特に都会に住んでいる女性が農山漁村に移住するそのわけは「子育てのため」といいます。
過疎や農村問題の専門家として幅広い研究を行っている明治大学農学部の小田切徳美教授にお話しをお聞きしました。

 少子高齢化社会が懸念される中、2014年に日本創生会議は「人口の減少、首都圏集中で2040年までに896市町村が消滅する可能性が高い」という増田レポートを発表。それで「地方消滅」かと危機感を高めた方も多いことでしょう。
──確かに高度成長期から、過疎化と東京への一極集中が進みました。しかし、それから概ね半世紀を経た今、人の流れが反転し、人々の意識が変わる田園回帰の動きも活発化しています。NPO法人「ふるさと回帰支援センター」(※1)(2002年設立)は地域情報を提供し、I・Uターンのサポートをしています。団塊の世代が定年を迎え、ふるさとへ帰ることを応援するために始まった組織ですが、近年、移住希望者の大半は若者で、急激に増加しています。世代が変わってきたといえます。
 また、移住者は2009年に総務省が取り組んでいる「地域おこし協力隊」(※2)を利用するケースも多いのですが、その4割が女性です。従来は単身の男性、単身の団塊の世代でしたが、最近は女性を含むファミリー層が増えています。
 内閣府の世論調査(2014年)によると、都市住民の3割以上が「農山漁村に定住してみたい」と考えており、とりわけ男性の若い世代でその割合が高い傾向があります。しかし、女性にも変化があり、2005年の同様な調査では10%台だった30代、40代の女性はいずれも30%台と倍近くの勢いで高くなっています。その背景には、子育て問題がありそうで、同じ調査では、女性の過半数が子育てに適している地域として、都市ではなく、農山漁村と答えています。
──女性の中には、子育ては農山漁村が適地だと考えている方もおります。自分の子どもをできるだけ小規模の小学校に通わせたい、という声も聞きます。都市部の一定割合の住民が農山漁村で暮らすことの価値を見出しています。
 最近の移住の傾向はIターンが増えた地域でUターン、親元に帰る事例が増えています。Iターン者がブログやツイッターで日常を発信し、それが情報提供になりUターンの火付け役になっています。その延長線上に子ども世代を飛び越して孫が移住する「孫ターン」の現象も生まれています。新規就農にもその傾向が出始めています。
 しかし、移住者の中には、いきなり専業的農業を志向する者は多くはなく、「半農半X型」が大多数です。Xには看護・介護・保育・蔵人(くらびと・酒蔵で働く職人)・写真家などいろいろな職業が入ります。農のある暮らしを実践しながら兼業で必要な収入を得られるよう、受け入れ先を紹介し成功している島根県の例もあります。
 東日本大震災以降、ライフスタイルや地域の絆が見直されることにより、農山村への移住は加速したといわれています。自分らしく暮らし、働く場として農山村が選択され、田園回帰がさらに進むことが期待されます。
※1 NPO法人「ふるさと回帰支援センター」 http://www.furusatokaiki.net/
※2 「地域おこし協力隊」https://www.iju-join.jp/chiikiokoshi

“なるほど”情報

輝いた地域が人を呼ぶ
移住の理由は多様化していますが、いざという時に医療が整っていることが最低条件です。その点でJA厚生連の病院(約43%が人口5万人未満の市町村に立地)は頑張っていると思います。さらに、買い物に関していえば、Aコープ店など全農の県本部やJAが地域課題の解決に一枚かむことで、買い物弱者に対応できると思います。また、JAの職員が地域づくりのコーディネーターとして関わることにも期待しています。
地元の人が地域づくりに踏み出し、当事者意識を持って焦らずに地域を磨いて輝くことができれば、必ず人は集まってきます。都市と農山村がネットワークを作り、お互いに支え合う仕組みを持つことも期待されます。

 
小田切徳美氏
明治大学農学部教授
小田切徳美(おだぎりとくみ)
1959年、神奈川県生まれ。東京大学農学部卒業、東京大学博士(農学)。高崎経済大学助教授、東京大学大学院助教授を経て、2006年から現職。「農山村は消滅しない」(岩波新書)、「世界の田園回帰」(編著、農山漁村文化協会)など著書多数。

2017.09更新