ふるさと探訪

日本各地の農畜産物を産地からリポート

期待の山梨県オリジナル品種夢桃香ゆめとうか

撮影◎磯野博正

中国原産の桃は弥生時代に日本へ伝わったとされ、観賞用、薬用、魔除けなどに使われていました。食用として栽培が広がったのは明治時代以降のこと。
今では全国で100を超える品種が栽培されています。
桃の生産量が日本一の山梨県が、次世代の桃として2020年にデビューさせたのが、県オリジナル品種「夢桃香」です。
しっかりとした果肉とジューシーさは、従来の桃にはない新しい味わいとして注目されています。

おいしさを長く保つ 緻密でみずみずしい果肉

 山梨県の中央、甲府盆地の東部に位置する山梨市。大正時代から始まった桃の栽培は、1950年代後半の養蚕業の衰退とともに一気に広がりました。盆地ならではの昼夜の寒暖差や国内有数の日照時間の長さなど、風土を生かした高品質な桃の産地として定評があります。
「桃は、果肉の色で白桃と黄桃に分かれ、白桃の中でも果肉のやわらかい白鳳(はくほう)系と果肉がしっかりした白桃系に大別されます。桃の出回りはおおむね6~8月ですが、1品種の旬は約10~14日しかありません。管内では早生(わせ)から晩生(おくて)まで14もの品種をリレーしながら出荷しています」と、JAフルーツ山梨 加納岩(かのいわ)支所 山梨ブロック指導課の竹川 要(かなめ)さん。

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4月中旬の開花時は桃源郷のよう。多くの人が訪れる

「夢桃香」は早生種の県オリジナル品種として、大玉で色づきの良い「モモ山梨6号」と酸味の少ない早生種の「日川(ひかわ)白鳳」を交配・育成し、2019年に「甲斐トウ果17」として品種登録されました。山梨県では「夢のようにみずみずしくおいしい桃」をイメージし、「夢桃香(ゆめとうか)」と名付けて商標登録しています。
「早生品種は収穫後にやわらかくなり過ぎることがあるのですが、同じ早生でも夢桃香は一定の所までやわらかくなった後は、その状態を維持します。従来の桃にはない特徴ですね」と、竹川さん。果肉がしっかりしていて輸送しやすいことから、輸出も検討されています。

最上級品は「信玄」と名付けてブランド化

 市内を流れる笛吹川沿いには桃園が点在し、ピンク色の桃が葉の間から顔を覗かせています。JAフルーツ山梨 山梨ブロック露地桃統一販売運営委員会 元委員長の小林直樹さんの果樹園では収穫の真っ最中。
「早生種の加納岩白桃に代わって5年前に夢桃香を導入しました。糖度が高く、色付きも良く、たくさん実をつけるので、今後主力品種になりそうだと思い、2ヘクタールのうち30アールまで栽培を広げています」と、桃一筋46年の大ベテランは期待を寄せます。

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「暗いうちから桃園に行き、暑さの中で一生懸命作っているので、たくさん味わって食べてほしいです」と、JAフルーツ山梨 山梨ブロック露地桃統一販売運営委員会 元委員長の小林直樹さん

 桃は土づくり、枝の剪定、摘蕾(てきらい)、摘花、人工受粉、3回の摘果、袋掛け・除袋(じょたい)と手を掛けながら、収穫を迎えます。甘くする最大のポイントは日当たり。「冬の剪定で、枝6本を四方に広げて樹の中心に空間を作り、根元まで日光が届くようにします」と、小林さん。しかし、夢桃香の難しい点は、「収穫の見極め」だと話します。
「早過ぎると硬いし、遅過ぎると果肉が茶色に変色するので、適期での収穫が欠かせません。軸周りに少し青みが残る色付きが目安なのですが、微妙な加減で判断が難しいです」。小林さんは持った時に手に吸い付いてくるような弾力や味も確認しながら判断します。

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収穫直前に反射シートを敷き、下からも日光を当て色付かせる
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手のひらで包むように持ち、ひねってもいでいきます

 収穫は早朝4時からスタート。桃は樹の上から徐々に熟していくため、1本の樹を上部、中部、下部に分け、もいでいきます。最盛期には8kgの収穫箱で200ケースにも上るとのこと。栽培する桃は9品種あるため、それぞれの適期を逃さないようあちこち回って時間に追われる毎日です。
「夢桃香は出荷量が伸びており、糖度12度以上で形や色付きも良い最上級品は『信玄』と名付けてブランド化しています」と、JAフルーツ山梨の竹川さん。出荷は7月上旬がピークで、5kg箱16~20個入りが全体の3割を占めます。

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【左】光センサー選果機で糖度、形、色などを測定【右】1個ずつ目視でキズなどを確認します
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厳選した桃を5kgや2kgの箱に詰めます。大玉の最上級品は「信玄」のブランド名で出荷

 やわらかい桃のジューシーさとサクッと嚙み応えのある食感が合わさった、早生と晩生のいいとこ取りな味わいの「夢桃香」。緻密な果肉は食べると甘味を強く感じ、華やかな桃の香りが鼻を抜けます。周囲が甘いので縦にくし切りにして食べるのがおすすめです。日持ちするので夏の贈り物にもピッタリ。ぜひ一度お試しください。
(2025年7月上旬取材)

JAフルーツ山梨の竹川 要さん
「県を挙げて推している新品種です。従来の桃とは違うしっかり食感やみずみずしい甘さを楽しんでください」と、JAフルーツ山梨の竹川 要さん

●JAフルーツ山梨

【夢桃香】生産概要
生産者:536戸
栽培面積:約8.6ヘクタール
出荷量:約248t(2025年実績)
主な出荷先:京浜、関西