生き物ゆえに24時間付き添うこともある畜産農家では、デジタル技術を駆使したスマート化の効果は高く、導入が進んでいます。
牛にウェアラブルデバイス※1を装着して体調変化を管理できる「Farmnote Color(以下、FNC)」と、牛を温度センサーで監視して分娩兆候を通知する「モバイル牛温恵」を取り上げ、スマート畜産の利便性に迫りました。
※1 着用して使う小型のコンピューター端末
スマート化で負担を軽減 子牛の生産効率アップへ
早朝の給餌や搾乳(酪農の場合)、畜舎の清掃、健康チェック、繁殖のための人工授精や分娩補助、飼料作物の栽培、堆肥づくりなど畜産農家の仕事は多岐にわたり、長時間労働が常態化しています。さらに近年は飼料・資材価格の高騰が経営を圧迫し、高齢化や担い手不足も重なって農家の数は乳用牛で1万1300戸、肉用牛で3万4000戸※2と、5年前と比べて共に約2割減少しました。一方で、1戸当たりの飼育頭数は乳牛、肉牛ともに増加しており、作業の省力化・精密化を図ることができるスマート畜産の普及が進んでいます。
和牛生産は、母牛に子牛を産ませて約10カ月齢まで育てる繁殖農家と、育てられた子牛(素牛(もとうし))を市場で買い付けて15~20カ月間程度育てる肥育農家に分かれます。繁殖農家にとって子牛の出生数は経営に直結する重要な指標です。酪農家にとっても、母牛が出産しなければ生乳が出ないため、繁殖管理は欠かせません。この牛の繁殖にかかわるスマート機器がFNCとモバイル牛温恵です。
※2 『畜産統計』(2025年) https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tikusan/
牛の体温や活動量を検知して体調管理

【右】牛にAI搭載のセンサーを付けて計測・解析するFarmnote Color
FNCは牛の首にAI搭載のセンサーを装着し、活動量、反芻(はんすう)※3・休息時間を自動で計測・解析して体調の変化を検知し、スマートフォンやタブレットに通知するスマート機器です。24時間計測し続けるため、疾病による起立困難や食欲低下のサインを早期に見つけやすくなります。また、「発情がいつ始まるか」といった発情兆候を見極めるのにも役立ちます。牛の体調をグラフや数値で見える化できるため、夜間などスタッフが牛舎にいない時でも見守りが可能となり、家畜人工授精師や管理獣医師との連携も取りやすくなります。発情を見逃さずに適期に授精することで、出産してから次の妊娠までの間隔を短くでき、1頭の母牛が産む子牛の数を増やせるなど、繁殖効率を高める管理支援ツールでもあるのです。
牛温恵は、体内に挿入したセンサーで母牛の体温を常時計測し、その変化から分娩兆候を検知するスマート機器です。測定した体温は5分おきにサーバーに記録され、牛舎から離れていてもパソコンやスマートフォンで体温の変化を確認できます。分娩時には、「分娩約24時間前」と「一次破水」の2回通知が届くため、「立ち合いの準備が余裕をもってできる」と利用者からも好評です。難産や体調の異変も早期に発見でき、管理獣医師への相談を通じて安全な分娩管理が可能です。
これら2つのスマート機器が普及すると、どのような影響があるのでしょうか。まず、牛の病気や事故が減り、生産基盤が安定します。さらに、農家の肉体的・精神的負担の軽減につながります。その結果、持続可能な生産体制のもとで、質の良い畜産物を継続的に消費者へ届けられるようになります。
FNCの導入率は全国でまだ1割弱ですが、牛温恵は約3割に達しており、口コミなどの広がりで導入する農場は増えています。全農では、安全・安心な生産体制と安定的な供給の実現を目指し、今後もスマート畜産の普及に力を注いでいきます。
※3 一度飲み込んだ食べ物を再び口に戻して噛み砕くこと