日当たりの良いハウスで徹底した栽培管理
「紅まどんな」は1990年に、強い甘みと適度な酸味のバランスが絶妙な「南香(なんこう)」と、たっぷりの果汁と柔らかい果肉が特徴の「天草(あまくさ)」を交配・育成し、2005年に品種登録されました。品種名は「愛媛果試第28号」ですが、紅の濃い外観、松山が舞台の小説『坊ちゃん』に登場する「マドンナ」に由来して「紅まどんな」の愛称が付けられ、2007年にJA全農が「紅まどんな」の商標を登録しています。実に17年もの歳月をかけて誕生した、待望の県オリジナル品種です。
「両親の良い部分を併せ持ったとても美味しい果実です。果皮が薄く果肉が柔らかいので非常にデリケート。露地で果実が雨にあたるとヘタ周りなどが黒ずんだりする果皮障害が発生しやすいので、ハウスや簡易の雨よけによる施設栽培を中心に栽培しています」と、JAえひめ中央南部営農支援センター果樹担当技術員の重松政明さん。JAえひめ中央は紅まどんなをいち早く導入して、県内一の生産量を誇ります。
全国有数の柑橘栽培地として有名な伊予市下灘の山間部にある富田健さんの柑橘園を訪ねました。海を望む斜面に建てられた3連棟のハウスはどの角度からでも太陽の光が当たり、急傾斜なので雨が降っても水はけがよく、紅まどんなを育てるための条件が揃っています。
「父の代まではハウスみかんを栽培していて、7年前にその一部を紅まどんなに切り替えたのを機に3代目として経営を引き継ぎました。栽培当初は、すべてにおいて試行錯誤の連続で、苗を植えて4年目にやっと収穫できるようになった時の喜びは格別でした」と、当時を振り返ります。「一番大切なのは水管理。玉太りや糖度に影響が出るので、切り替えのタイミングがとても難しい。夏場の水管理には樹の根元に張り巡らせたパイプで点滴灌水を行っています」とのこと。
さらに夏場は果実が肥大する大切な時期。水管理はもちろん、紅まどんなの特徴でもある鮮やかな紅色を出すために、40℃以上にもなるハウス内での枝吊り作業も必須です。果実の重みで枝が折れないように、また枝を上に向かせて果実に日光を十分に当てることで糖度を上げ、きれいな色づきを促します。ハウス内は約30度の急傾斜で、上り下りだけでも重労働。真夏の暑さも加わり、かなりの労力を要しますが「ていねいに手をかければかけた分だけ結果がついてくるので、やりがいがあります。今後は栽培面積も増やしていきたい」と、熱い思いを語ってくれました。
高品質を維持しブランド価値を高める
紅まどんなの収穫は11月中旬から12月下旬頃までの約1ヵ月間に集中します。コンテナで選果場に出荷されると、1個ずつ外観、着色、形状などをチェックし、光センサーによる糖度測定をして、JA全農えひめが定める品質基準と外観基準をクリアしたものだけが「紅まどんな」として出荷されます。
「糖度が高く、大玉で外観がきれいな紅まどんなは、ちょうど出荷時期が12月ということもあり、贈答品としてとても人気があります。今後も生産者が自信をもって作り続けていけるように、ブランド価値をより高め、守っていきたい」と、JAえひめ中央の重松さん。
紅まどんなの最大の特徴は伊予柑やオレンジにはない、果肉のとろけるような食感です。プルプルとした果肉はまるでゼリーのような舌触りで、柑橘としてはまさに新食感。果皮(外皮)が薄く、手で皮をむくのは難しいため、皮ごとクシ切りにしてください。
毎年、市場関係者も出荷を待ち望んでいる「紅まどんな」。出荷期間が短いので、どうぞお見逃しなく。
(2021年12月上旬取材)
●JAえひめ中央
「紅まどんな」生産概要
生産者:1028名
栽培面積:約148ヘクタール
出荷量:約2800トン(2021年度実績・愛果含む)
主な出荷先:関東、関西