農業は、謎だらけだ。
たとえば、小学校の授業で、日本の第一次産業は衰退しており国が支えていると習ってしまうので、「農業は、守らなければならない産業」だと思っている人が多い。
だが、二〇一三年に発表した食と農業をテーマにした小説『黙示』で取材をした時、「農業は、最後の成長産業だ」と確信した。
国土の七割が山林のため農地面積が限られているのに、約一億二五◯◯万人に主食のコメや野菜、果実などを供給している。
しかも、味が良く、安全性が高く、供給が安定している。まるで、工業製品を作るような精緻さで、農産物が日々出荷されている。
そして、年々、農産物の輸出も増えている。経済成長著しいシンガポールや香港を含む中国などでは、高値がついても日本の農産物を買い求める人が大勢いる。
『黙示』で取材した時、農地がほとんどない香港では、中国大陸のキャベツが一個四〇〇円なのに対して、日本のキャベツは一〇〇〇円以上した。なのに、圧倒的に日本のキャベツが人気だった。
食糧自給率が、ピンチ!と長年言われている。だが、調べてみると釈然としない数字だと分かった。
なぜなら、現代では三食白飯を食べている日本人は極めて少ない。なのに、今なお日本政府も多くの日本人も「主食は、お米」だと信じてる。
朝、パンをかじり、お昼はラーメンを啜り、夜はピザやパスタを食べるような食生活の人がどんどん増えている。小麦由来のものばかりだ。だとすれば、「日本人の主食は、小麦です」と言われる時代が近いかも知れない。
にもかかわらず、必死で小麦を生産しようとはしていない、気がする。専門家に尋ねると、「日本の風土では、美味しい小麦ができない」らしい。だが、亜熱帯植物のコメを豪雪地帯の新潟や極寒の北海道で栽培し、「おいしい!」と人気のコメを生み出した日本の農業の力を思えば、その発言には疑問が残る。
改めて「農業って何?」「現状はどうなっているの?」と問い直す時が来ているのではないだろうか。
農業関係者だけではなく、国民を巻き込んで、農業について深く考えていこう。
そうすれば、農業は、これからの日本を元気にする可能性に満ちた産業だと気づくのではないだろうか。
真山 仁(まやま じん)
小説家 1962年大阪府生まれ。同志社大学卒、新聞記者、フリーライターを経て2004年『ハゲタカ』でデビュー。同シリーズのほか、『当確師』『当確師 十二歳の革命』『レインメーカー』『墜落』など、幅広い社会問題を現代に問う作品を発表している。最新刊は、シンガポールを舞台に光量子コンピューター開発の近未来を描いた『タングル』。
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