近年は私が今住んでいる東京でも、あたり前のように「タコ焼き」を目にする。テイクアウトのお店もあるし、スーパーやコンビニでも簡単に手に入る。タコ焼きの姿をみるたびに「時代が変わったなあ」と思う。
今から60年ほど前、上京した際、ごくわずかの身のまわりの品以外はすべて新しく買いそろえた。家具。寝具。キッチン用品etc…。大阪育ちなのでキッチン用品の中には当然「タコ焼き器」も含まれている。池袋の大きなデパートのキッチン用品売り場でタコ焼き器を探した。無い。店員さんに聞いてみた。置いてないと言う。商店街の小さな店まであたったがどこにもない。東京の人の生活の中には「タコ焼き器」は存在していなかったのだ。仕方なく大阪の親に頼んで送ってもらった。タコ焼き器が届き自分で作ったタコ焼きをようやく味わえたのは引っ越してきて三週間ほど経っていたころだったか。
大阪で暮らしていた時は、近所の友達の家や親せきの家ではタコ焼きもお好み焼きも各家の味があった。「わが家の味」を極めて、いかに独自色を出すか、で盛り上がるのが楽しかった。
小麦粉をとく出汁は、カツオ、昆布、鶏ガラ、好みで。具は各家庭で好きなものを入れれば良い。タコ、ネギみじん切り、紅ショウガは定番。ちくわの小口切りもおすすめ。うちでは時々合いびき肉をカラ煎りしたものを入れたりもした。これはインパクトが強く、男の子たちに受けた。最近ではチーズ入りも流行しているとか。具沢山のタコ焼きは主役になれる。返すのに技術がいるが、その腕を競い合うのも盛り上がる要素だ。
今はタコ焼き器は全国どこでも手に入る。食文化…というと大げさだが、地域独自の味もあっという間に全国区になる。「こんな食べ物やこんな食べ方があったのだ」と知ることで、地域の違いを知るようになるのは楽しい。地域の違いを知った上で「やっぱりわが古里のが一番」と言って盛り上がるのがまた楽しい。
こんなことで楽しめるのも平和だからだ…とありがたく思う。
里中満智子(さとなか まちこ)
マンガ家。16歳の時『ピアの肖像』で第1回講談社新人漫画賞受賞。代表作は『あした輝く』『アリエスの乙女たち』『あすなろ坂』『天上の虹』ほか。(公社)日本漫画家協会理事長、(一社)マンガジャパン代表理事、大阪芸術大学キャラクター造形学科学科長等を務める。