夏場の市場の約8割を占める
飛騨地域は3000メートル級の乗鞍岳をはじめとする北アルプスや御嶽、白山連峰などに囲まれた高冷地。きれいな空気と伏流水の流れる豊かな自然環境の中、飛騨ほうれんそうの栽培が始まったのは今から60年ほど前のこと。
「暑さに弱く雨が多いと品質が低下するほうれん草は、夏に作るのが難しい野菜です。飛騨地域では全国に先駆けて1970年頃から雨よけの簡易ビニールハウスを導入し、夏でも夜間の気温が下がる高冷地特有の環境とうまく合わさり、夏ほうれん草の一大産地として成長してきました」と、JAひだ営農部園芸課の和田将弘さん。
今では関西や中京を中心に出荷され、盛夏期における市場の入荷量の約8割を飛騨ほうれんそうが占めるほどです。また、管内の畑は標高300mから1300mにあり、3月下旬から12月上旬まで長期出荷が可能となっています。
「うちのハウスは標高700mくらいの所にあります。今年は雪が多かったので例年より1ヵ月遅れて4月下旬が初収穫でした。春から秋にかけて季節にあわせて5~6品種を選んで種まきをして、約30〜40日で収穫を迎えます。各ハウスで1シーズンに4~5回転させます」と、JAひだ 飛騨蔬菜出荷組合ほうれんそう部会の玉田明正部会長。
生産者全員が雨よけハウスで栽培し、より安全で環境に優しい農業をめざしてGAP(農業生産工程管理)に取り組んでいます。
「雪の重みでハウスが潰れてしまうので12月にはハウスのビニールを外して、飛騨牛の完熟堆肥を畑に混ぜ込み、しっかり土づくりをして冬の間お休み。翌年2月頃に土を耕し、またビニールを張って種まきが始まります」と、玉田部会長。
ブランド牛である飛騨牛の完熟堆肥が十分に投入された畑の土はふかふか。水はけと水もち、通気性のよい土と豊かな自然環境で育つ飛騨ほうれんそうは、葉が厚くて柔らかく、えぐみが少ないと大人気です。
徹底した温度管理で美味しさそのまま
玉田部会長は奥様の由紀さんと二人で、約1・6ヘクタールの畑を管理しています。
「種まきや水やり、収穫などの作業は機械があるから夫婦でできるけど、一番手がかかるのが選別・調製作業です。収穫して作業場に持ち帰り、下葉や折れた葉などを取り除いて選別し、計量して袋に詰め、箱詰めして出荷となります。すべて手作業なのでパートさんにもお願いしています」とのこと。人手不足は深刻な問題で、玉田部会長は以前にトマトを栽培していましたが、収穫時期が夏場に集中して雇用が難しくなったため、20年前からほうれん草栽培に切り替え、長期雇用で人材を確保しているといいます。
葉物野菜は鮮度が命です。飛騨ほうれんそうは収穫から消費者の皆様の手元に届くまで低温管理を徹底し、採れたての味をお届けしています。
「まず収穫前のハウスに遮光ネットをかけて温度を下げ、葉がしおれるのを防いで朝夕の涼しいうちに収穫します。選別・調製後は各農家に設置してある予冷庫で保管し、集荷場までは荷台に断熱カバーをかけたトラックで搬送します。管内に10ヵ所ある集荷場には真空予冷装置があり、短時間でムラなく一気に5℃まで冷やしたあと、予冷庫で出荷まで管理。その後、冷蔵トラックなどで各市場に向けて出荷します」と、JAひだの和田さん。
こうしたコールドチェーンを徹底することにより、美味しさをそのままお届けすることができます。購入の際は葉先のピンとしているものを選び、冷蔵庫に保存する場合は根元に湿らせたキッチンペーパーを巻き付けてビニール袋に入れ、立てて保存しましょう。ゆでたものを小分けして冷凍保存すると、みそ汁やお弁当のおかずなどにすぐ使えて便利です。栄養満点の飛騨ほうれんそう、毎日の食卓で楽しみましょう!
●JAひだ
【飛騨ほうれんそう】生産概要
生産者:314名
栽培面積:181ヘクタール
出荷量:約7000トン
主な出荷先:関西、中京、関東、北陸など