家庭菜園・きほんの「基」

野菜に適正な養分を吸収させるポイントを教えてください

指導◎岡本 保(JA全農 肥料研究室技術主管)イラスト◎かとうともこ

「わくわく菜園づくり」でおなじみの菜園田ファミリー。東京都内のマンションに住んでいた大地、若菜さん夫婦は美味しいものが大好きで、休日は二人で食べ歩きをしていました。子どもができたのをきっかけに素材の野菜作りから楽しもうと、東京都郊外の庭付き一戸建てに引っ越しました。娘のナナちゃんと息子のアグリくんも畑でのお手伝いが大好きです。
ナナちゃんは虫がちょっと苦手、アグリくんは何でも手づかみするいたずらっ子ですが、種まきや水やりがとても上手です。
これから家庭菜園を始めようというビギナーさん必見!野菜作りの基本のきを紹介します。マスターしたら、本誌の「わくわく菜園づくり」を参考にチャレンジしてね。

菜園田ファミリー
菜園田ファミリープロフィール
  • お父さん:大地(ダイチ)35歳
    お母さん:若菜(ワカナ)33歳
  • 長女:菜菜(ナナ)8歳
    長男:阿久利(アグリ)4歳
  • ペット犬:ユズ(♂)
    ペット猫:アズキ(♀)

Q野菜に適正な養分を吸収させるポイントを教えてください

A 植物の根は水を吸うことで水に溶けた養分を同時に吸収します。根が水を吸うためにはエネルギーが必要です。このエネルギーは根が呼吸をすることで得られます。すなわち、作物が養分を吸収するためには、根の周りに養分を溶かすための水と、呼吸に必要な空気(酸素)が必要です。このため、水分と空気の両者を保持することができる団粒構造(2022年9月号参照)の土を作ることが、野菜に適正な養分を吸収させるポイントの第一点目です。
 次に重要なのは、そもそも養分が水に「溶ける」必要があるということです。養分の水への溶けやすさは、言い換えれば植物への吸われやすさ(養分の「可給性」といいます)です。養分の可給性は土壌条件、とくに土壌pHの影響を大きく受けます。このため、たとえ土壌中で量的には足りていても、土壌条件によっては水に溶けにくくなる(可給性が低下する)ため植物が吸収することができなくなります。多くの養分は弱酸性(pH6.5程度)で最も水に溶けやすくなり、植物に吸われやすくなります(繰り返しますが植物の根は水に溶けた養分を水と一緒に吸うので)。逆に極端な酸性やアルカリ性では養分が水に溶けにくくなり、植物に吸われにくくなります。土壌が極端な酸性やアルカリ性にならないように、普段からの注意が重要です。堆肥には土壌pHの急激な変化を和らげてくれる効果(緩衝能といいます)があるので、堆肥の施用による普段からの土づくりは有効です。しかし、雨が多い日本では石灰類が降雨により下層に流されて作土層(2022年8月号参照)が酸性になる傾向があります。これを矯正するため、石灰類を年に一度程度は施用して、土壌pHを養分が最も溶けやすい弱酸性に維持する必要があります。ただし、土壌pHが高すぎても養分が水に溶けにくくなり、植物が吸うことができなくなるので、酸性矯正のための石灰類は過剰施用にならないようにも注意が必要です。
 作物の生育に必須な養分のうち窒素、リン酸、カリを肥料の三要素と呼びます。これらは作物を栽培するために必要とする量が多いので多量要素とも呼びます。自然の土壌や雨水や堆肥などにも含まれていますが、それだけでは作物には不足しがちなので、肥料として適量を施用する必要があります。これに対して、ホウ素、マンガン、鉄、銅、亜鉛、モリブデンなどの養分を微量要素と呼びます。微量要素はその名のとおり作物が必要とする量が微量なので、自然の土壌や雨水や堆肥に含まれる微量要素だけでも、通常は不足することはありません。とくに、堆肥には作物に必要なほぼすべての微量要素が比較的豊富に含まれているので、堆肥による土づくりを普段から行っていれば、微量要素が不足することはほとんどありません。野菜類を商業的に連作している専業農家などの場合を除けば、家庭菜園等では微量要素入りの肥料は特別に意識して施用する必要はありません。
 このように堆肥による土づくりは、堆肥そのものが野菜に必要なすべての養分の供給源になることに加え、野菜が養分吸収しやすい団粒構造の土壌を作り、また土壌pHの急激な変化から守ってくれるなど、多面的に養分吸収を助けます。普段からの適量の堆肥による土づくりが、野菜に適正な養分を吸収させる重要なポイントといえます。

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2023.01更新

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