たくさん種類のある肥料、どれを使ったら良いのか迷います。
野菜栽培などに利用する肥料は、化学肥料と有機肥料に大きく分けられ、更に化学肥料や有機肥料の中にも、色々な種類があります。それぞれの特徴を生かした使い方について考えてみましょう。
1.化学肥料と有機肥料の使い分け
作物の根は水に溶けた無機物の窒素、リン酸、カリなどを、水と一緒に吸収します。水に溶けないタンパク質や繊維質などの有機物は、直接吸収することができません。
一般的な化学肥料はその有効成分が水に溶けやすい無機物であり、水に溶けて直ちに作物の根に吸収されます。このため効きが早く、葉根菜類から果菜類まであらゆる作物の元肥および追肥に利用できます。とくに生育期間の短いコマツナなどの葉物類の栽培には、早く効く化学肥料が適します。
一方、有機肥料はその成分がタンパク質や繊維質などの有機物で、土の中の微生物に食べられて分解されて、無機物の窒素やリン酸などに変化してから、初めて作物に吸収されます。このため、効くまでに時間がかかります。その反面、効果が長く持続します。また、土の中の有用微生物を増やし、土の環境を改善する効果があります。徐々に効果を発揮するので、生育期間が長いトマトやナスなどの果菜類や、果樹の栽培に適します。また、有機質肥料は主に元肥に利用します。
2.化学肥料の種類と使い分け
化学肥料には三要素、すなわち窒素、リン酸、カリのうち、一要素のみを含んでいる単肥(硫安、過石、塩化カリなど)と、二要素以上を含む複合肥料があります。現在園芸店等で市販されている化学肥料の多くは複合肥料です。複合肥料には窒素:リン酸:カリを各8%前後程度含む「普通化成(または低度化成)」と呼ばれる化成肥料(8:8:8など)と、窒素:リン酸:カリを各14%前後程度(三要素の合計で30%以上)含む「高度化成」と呼ばれる化成肥料(14:14:14など)があります。これらのうち、まきむらや肥料焼けが起こりにくく、あらゆる種類の作物に使いやすいのは、三要素を8%前後程度含む、普通化成(8:8:8など)です。
化学肥料には液肥と呼ばれる液状の肥料もあります。液肥は肥料成分が既に水に溶けているので速効性で、元肥、追肥のどちらにも使えます。果菜類にも葉根菜類にも有効な万能肥料で、効きが早いのが一番の特徴です。葉面散布(葉の表面に霧吹きなどで肥料を吹き付けて、葉から直接吸わせる方法)にも使えます。葉面散布は根が弱っていて肥料が根から吸えない状態のときなどに、高い効果を発揮します。
特殊な化学肥料としてCDU化成やIB化成といった、水への肥料成分(窒素)の溶け方を、化学的にコントロールした肥料もあります。これらは水にゆっくり溶けながら長期間効果を発揮するので、トマトやナスなどの生育期間が長い果菜類などの栽培に適します。
3.有機肥料の種類と使い分け
有機肥料の中でもよく使われる、油かす、魚かす、鶏ふん、骨粉の特徴と使い方を以下に説明します。
油かすの成分は、窒素:リン酸:カリ=5:2:1%前後で、窒素含量が相対的に高く、また有機肥料の中では窒素の効きが比較的早いのが特徴です。
魚かすは同8:8:0%前後で、窒素とリン酸を同程度含みますが、カリを含まないのが特徴です。その他に、石灰を10%程度含みます。
乾燥鶏ふんまたは発酵鶏ふんとして市販されている鶏ふんは、同3:5:2%前後で、有機肥料の中では窒素、リン酸、カリの3要素のバランスが比較的整った肥料です。ただし、石灰を10%程度含みます。このため多量に施用し続けると、土壌がアルカリ性化するので注意が必要です。
骨粉は同4:20:0%前後でリン酸の含量が突出し、カリを含みません。また石灰を30%程度と多量に含む特徴のある肥料です。
上記の有機肥料の成分値は、天然のものなので多少の変動があります。しかし傾向として把握した上で、上手に組み合わせて利用すると便利です。油かすはリン酸が少なく、魚かすや骨粉はカリを含まないので、油かすで窒素とカリを供給し、不足するリン酸を魚かすや骨粉で補うという組み合わせでの使い方が考えられます。鶏ふんは有機肥料の中では窒素:リン酸:カリのバランスが比較的よくとれてはいますが、上記のとおり石灰含量に注意が必要です。
これらの有機肥料は、前述のとおり土壌中の微生物により分解されて、無機物の窒素やリン酸などに変化してから効果を発揮します。このため、施肥から作付けまで1~2週間程度の時間を置く(地温が低いほど長く)必要があります。
4.堆肥と肥料の役割の違い
肥料の使い分けの話からは少し横道にそれますが、堆肥と肥料の役割の違いについて最後に述べます。
「堆肥」はワラ、剪定屑、家畜糞などの原料を単独または混合して堆積し、数か月以上発酵させたもので、繊維質を多く含み、土の中の有用な微生物のエサとなり、土壌の保水性、排水性、通気性などの物理性を改善し、土を柔らかくする効果があります。即ち「堆肥」は作物の根が働きやすい快適な環境を、根の周りに整えるために施用するものです。
一方、化学肥料や有機肥料などの「肥料」は、窒素・リン酸・カリなどの、作物の成長に必要な栄養分を土の中に補給するために施用するものです(有機肥料には土壌微生物を増やす働きも併せて期待できる)。人の衣・食・住に例えれば、「堆肥」は作物にとって「衣と住」のようなもの、「肥料」は「食」そのものです。
5.まとめ
化学肥料「のみ」では、野菜を末長く健康に育てることは困難です。これは野菜が病気や害虫や気象災害などに負けずに、健康に育つためには、土壌中に多様な微生物が生息している必要があるからです。土壌中の微生物は団粒構造(2022年9月参照)の土壌を作り、土壌の通気性、排水性、保水性を高めてくれます。また植物病原菌の活動を抑える効果も期待でき、健康な野菜作りのために不可欠な存在です。土壌中で多様な微生物が活動するためには、そのエサとなる有機物が必要です。しかし、作物を栽培すると土壌中の有機物は徐々に消耗します。このため、作物を栽培する畑の土壌には、人が何らかの形で有機物を補給する必要があります。
化学肥料だけでは土の中の有機物は消耗する一方です。しかし、化学肥料は効果が素早く現れ、元肥や追肥にいつでもどんな作物にも高い肥料効果を発揮します。なたね油かすや骨粉などの有機肥料は、肥料としてゆっくりと持続的に効果を発揮すると同時に、土壌中の有用微生物の増加にも役立ちます。牛ふん堆肥やバーク堆肥などの堆肥は、有用微生物のエサとなる有機物を効率よく土壌に補給し、作物の根にとって住みやすい環境を作るためには欠かせない存在です。化学肥料と有機肥料と堆肥とを、上手に組み合わせて利用することが、健全な野菜作りにつながります。