第52回 令丈ヒロ子さん

お米天国の年

 この一年は我が家にとって、お米天国だった。何のことかというと、お米のプレゼントがこれでもかとばかりに続いたのだ。
 最初は、母の友だちから近江米が30キロ届いた。ご自身が持っておられる田んぼの作物だということだった。
 お米のつぶの歯ごたえがいい。冷ご飯で食べるといっそう味が濃い!弁当箱に詰めて仕事場に行ったけれど、もう毎日お昼ごはんが楽しみでならない。
 そんな風に喜んでいたら、児童文学の師匠である山中恒先生が、ピカピカの魚沼産コシヒカリをたくさん贈ってくださった!
 先生が信頼されている生産者さんのお米だけあって、白い宝石のように美しい。そして炊き立てのおいしさは、格別。一口ごとに幸せがあふれる。
 そこに兵庫県の親戚から、どかんとすごい量の新米をいただいた。
 母の郷里でもあるこの地方はもともと酒米を作っていた土地。とにかくお米がおいしい!
 慣れ親しんだ味でもあり、一口ごとに「おいしいなあー」と言ってしまう。
 食べると体が「来た来た!」と喜んでいるのがわかる。
 最後をかざるように届いたのが、町会からの高齢者対象のプレゼント……お米だった。
 2キロのコシヒカリの米袋を受け取って、ありがとうございますと深く頭を下げた。
 こんなにお米がたくさん贈られた年は58年間生きてきて、初めてだ。
 昨年も世の中は厳しく、疫病は完全に終息させる方法も見つからず、紛争、侵略戦争、地震に経済格差、ぞっとするような税金の話……不安の種がてんこもりだった。
 そこに個々の仕事や家族、健康の問題がかさなると、なんと不安の種類というのは、バラエティに富んでいて、いくらでも増えていくものだと、あきれ、感心してしまう(感心してる場合ではないけれど!)。
 そんな中で、おいしいお米に囲まれた暮らしは(文字通りお米袋に囲まれていた)何とも言えない豊かで安心感に包まれていた。福の神でもいらっしゃるような、ありがたーい、おめでたい感じ。
 不穏な状況の中、そのような日々をすごさせていただいたこと、お米を贈ってくださった方々、そしてそれらのお米を作ってくださった生産者さんたちに、深く感謝します。皆さん、お米天国の一年をありがとうございました!

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イラスト:今井夏子
朽木 祥

令丈ヒロ子 (れいじょう ひろこ)

1990年児童書作家デビュー。『若おかみは小学生!』シリーズ(講談社)は300万部を超すヒット作。劇場版アニメ化作品は第42回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞他、多数の受賞。成安造形大学、嵯峨美術大学客員教授。近著は『妖怪コンビニ』シリーズ(あすなろ書房)『病院図書館の青と空』(講談社)など。

「パンに書かれた言葉」小学館
「病院図書館の青と空」
講談社

2023.04更新

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