第60回 千住真理子さん

『卵かけご飯』

 生卵を毎朝3つ、ガラスのコップに割り入れて呑む。喉越しでその卵の美味しさがわかる。この食べ方が出来るのは日本の新鮮な卵、だけだ。
 15年ほど前からこれをやるようになって風邪を全くひかなくなった。
 コレステロールを心配される方もいらっしゃるが、私の場合は定期的血液検査で全く問題ない。むしろ様々な値が優等生になっている。
 「生卵呑み」は15年ほど前から始めた。きっかけは体調を崩したことだった。演奏会当日、点滴を受けながら演奏する日々に、なんとかもっとしっかりした身体を作れないかと考えた末、思い付いたことだった。
 卵の栄養のおかげで私はみるみる健康になっていった。それからというもの演奏活動に卵は欠かせなくなった。
 この「生卵」というのがポイントだ。何より、どんなに時間のない朝でもサプリメントの如く一瞬で栄養が摂れる。茹で卵にすると茹で時間も食する時間もかかってしまう。
 もちろん時間があれば半熟やオムレツ、卵焼き、卵炒飯など出来るが、私は時間が無い時のほうが多い。時間があったとしてもせっかち故、いかに素早く栄養を摂るか、と考える。だから「生(なま)」がいい。
 でも、本当は「卵かけご飯」が最も好きだ。
 少し時間があれば、炊き立てのご飯を待って生卵を割り入れる。炊き上がったお釜の蓋を開ける瞬間、ワクワクする。お米の炊き立ては何もなくても美味しいし、ただお塩をかけただけでも充分に満足なのだが、卵かけご飯とくれば、この上なく贅沢だ。
 炊き立てほかほかご飯の真ん中を少しへこませて、そこに新鮮な生卵を割り入れ、かき混ぜ過ぎずささっと混ぜてお醤油を垂らし、ジュルジュルッと食べる。お醤油の濃いところ、かかってないところの変化、白身の喉越し、黄身の濃厚な旨み、その口当たりの違い……何杯でも食べられる。
 お醤油のかわりに、瓶のほぐしシャケを入れたり、なめ茸を入れたり、海苔の佃煮を入れたり、納豆を混ぜれば最強の旨さだ。
 自分がこの世を去る最後に、食べたいのが「卵かけご飯」…… うわっ、今すぐ食べたい!

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イラスト:はやしみこ
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千住真理子(せんじゅ まりこ)

ヴァイオリニスト。2歳3ヵ月よりヴァイオリンを始める。NHK交響楽団と共演し、12歳でプロデビュー。1977年第46回日本音楽コンクール優勝、など受賞歴多数。2002年秋、ストラディヴァリウス「デュランティ」との運命的な出会いを果たし、話題となる。コンサート活動以外にも、講演会やラジオのパーソナリティを務めるなど、多岐にわたり活躍中。

<公式HP>
https://marikosenju.com/

「千住家、母娘の往復書簡母のがん、心臓病を乗り越えて」文春文庫
「千住家、母娘の往復書簡 母のがん、心臓病を乗り越えて」 千住文子共著
文春文庫

2023.12更新

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