【栃木県宇都宮市】

栃木生まれの大玉品種 にっこり梨

文◎編集部 撮影◎磯野博正

栃木県下一の梨の生産量を誇る宇都宮市。
そこで手塩にかけて育てられている梨が「にっこり」です。
観光地の日光と、梨の中国語読み「リー」を組み合わせて名付けられました。
名前のとおり、食べた人が思わずにっこりしてしまうほどみずみずしくて甘く、なめらかな食感の梨です。
新たな栽培技術の導入にも取り組み、高品質な梨を安定生産するJAうつのみやを訪ねました。

ジョイント栽培導入で作業効率UP

「手塩にかけて育てた自慢の梨です」と、JAうつのみや梨専門部の相場照久専門部長
 栃木県のほぼ中央に位置する宇都宮市は、鬼怒川、田川、姿川などの水資源に恵まれ、肥沃でミネラル分を豊富に含んだ黒ボク土壌は、梨栽培の適地といわれています。
「幸水、豊水、あきづき、新高、甘太そしてにっこりと、8月から11月頃まで順次出荷が続きます。安定した人気の幸水や豊水は競合産地も多く、8~9月に出荷が集中するので、10~11月頃に出荷できる品種として『にっこり』が誕生しました。大玉で食べ応えがあり、果汁が多くて果肉がなめらかで糖度が高い、とっても美味しい梨です。しかも貯蔵性がよく船便で運べるので、東南アジアなどへの輸出もこの5~6年で定着しています」と、説明してくれたJAうつのみや営農部園芸課主査の大金俊介さん。
「にっこり」は1984年に栃木県農業試験場で「新高」と「豊水」を交配して選抜育成され、1996年に品種登録されました。大玉で重さが700g~1kg以上にもなるという「にっこり」。1本の樹につく実を摘果して、残した実を大きく育てます。

「4月上旬に花が咲いて授粉作業をする時点で、180~190日後にどれくらいの大きさに育ち収穫できるかをイメージしています。幸水や豊水より花が早く、作業時期が重ならないからこそ、しっかり手をかけることができます」と、JAうつのみや梨専門部の相場照久専門部長。どの品種よりも早く花が咲き、最後に収穫を迎えるにっこりは、生産者が長い時間手塩にかけて育てた賜物といえます。
 JAうつのみやでは労働力不足を補うため、生産者と一体となって、新しい栽培方法に積極的にチャレンジしています。そのひとつが「ジョイント栽培」です。主枝を一方向に伸ばし、先端部を隣りの樹に接ぎ木して一直線に仕立てる栽培方法で、近年導入する梨の産地が増えているそうです。

先端部を隣の樹に接ぎ木して一直線に仕立てる「ジョイント栽培」
「梨園の樹が老齢化して植え替えた場合は、果実が収穫できるようになるまで収益が見込めない期間が5年以上でますが、この栽培方法なら3年目から収穫が可能となり5年目には収量も安定します。剪定や人工授粉、収穫の際の作業導線も単純になるので、省力化と早期多収が見込めます」と、相場専門部長。熟練の技に頼らずとも収量が見込めることから、パート労働力を活かして規模拡大がしやすい栽培方法だとも。手入れが行き届いて真っ直ぐ整然と枝が伸びた広大な梨園には、ずっしりとした梨がたわわに実り、見事としかいいようがありません。相場専門部長はこの栽培方法を導入して、2.4ヘクタールの栽培面積を2022年には2.7ヘクタールに拡大する予定だといいます。

名乗れるのは高糖度の梨だけ

1玉ずつ人の目と光センサーで厳しく選果

 収穫された梨はコンテナに詰めてJAの選果場に出荷されます。選果場では1玉ずつラインにのせられ人の目と光センサーで形、大きさ、糖度、熟度を計測後、箱詰めされていきます。
「当JAでは糖度10度に満たないのものは『にっこり』として出荷しません。13度以上が目標です」と、JAうつのみやの大金主査が言いきるように、品質には絶対の自信をもっています。
「大玉、贈答用としての需要が多いですが、市場の売れ行きをみると1玉700~800gで、7玉入り(1箱5kg)が人気です。消費者の皆さんの要望に応えながら大きさを揃え、品質のよいものを安定出荷していきたいです」と相場専門部長。病害虫はもちろん、春先の霜や長雨による日照不足、猛暑、台風の直撃など自然災害の心配をしつつ、授粉から半年経ってやっと収穫を迎えます。

 大玉な梨ですが決して大味ではなく、酸味がないので甘みが強く感じられます。日持ちがするので、慌てて食べなくていいのも魅力です。生産者の想いが詰まった「にっこり梨」をどうぞ召し上がれ!
(取材:2020年10月上旬)

●JAうつのみや
【にっこり梨】生産概要
生産者:100名
栽培面積:約160ヘクタール
出荷量:約3800トン
主な出荷先:京浜、栃木県内

「美味しさには自信があります」と、JAうつのみや営農部園芸課主査の大金俊介さん

2021.10更新

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