【群馬県前橋市】

多品種でニーズに対応する小麦

文◎来栖彩子 撮影◎磯野博正

麦の穂が実って熟してくると、麦畑一面が黄金色に染まる「麦秋」の季節到来です。
群馬県は米との二毛作で小麦が盛んに栽培されている全国有数の産地。
江戸時代から小麦を使った粉食(ふんしょく)文化が定着し、日本三大うどんの一つとされる水沢うどんや、おっきりこみ、焼きまんじゅうなど小麦を使った郷土料理が数多くあります。
赤城山、榛名山を望む関東平野に位置する前橋市は、県内4分の1の収穫量を誇る小麦の産地です。

生産者全体で一斉に適期収穫

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「幼い頃から家で地元の国産小麦でうどんを作って食べていました」と、農事組合法人二之宮の、岡 賢一代表理事
 群馬県は冬の長い日照時間とからっ風、火山灰土壌など、小麦の栽培に適した環境があり、古くから稲作とともに小麦の栽培が行われてきました。加えて、養蚕から小麦への転換も進み、全国的にも大きな産地となりました。
「今では他の産地でも二毛作を始めているところがありますが、群馬は昔から二毛作で栽培してきました」と、JA前橋市販売部農産販売課の金子賢次課長。
「うどんなどに使う中力粉の品種を中心に、ニーズに合わせてさまざまな品種を県で育成しています。
例えば“さとのそら”は菓子用としても使え、汎用性が高いです。“つるぴかり”は粘りが強くもちもちのうどんに、“きぬの波”は滑らかでコシのあるうどんになります。また、パンや中華麺に使う高タンパクの“ゆめかおり”は地元の学校給食にも使われています」と、金子課長。
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 収穫は6月10日頃から始まり、6月下旬まで。品種ごとに収穫の時期をずらし、管内の生産者全員が同じタイミングで収穫していきます。
「品種ごとにJAのライスセンター(共同乾燥調製施設)で集荷、乾燥、貯蔵をします。すべての畑の集荷、乾燥が終わったら、次の品種の収穫を始めます」と話す金子課長ですが、収穫時期はちょうど梅雨にあたるため、適期の見極めが難しいとのこと。雨が降って収穫が遅れると、後に続く品種の収穫スケジュールも後ろ倒しになり、それにより麦が過熟になると品質が低下してしまいます。
「高い品質を保つために、天候を見ながら生産者とライスセンターがしっかり連携して、臨機応変に動けるスケジュール管理をすることが最も重要です」。
 ライスセンターの乾燥作業は24時間体制で稼働。多いときは1日で200〜300トンの集荷があります。

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収穫された小麦がライスセンターに次々と運び込まれ、選別、乾燥、貯蔵されます

先進技術を利用して品質、栽培面積をアップ

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梅雨空を見計らいながら、限られた収穫適期に一斉に収穫
 収穫は地域で一斉に行われます。
「小麦の後はすぐに田植えの準備となるため、遅れると米づくりにも影響してしまいます。常に時間とタイミングとの闘いです」と話す、農事組合法人二之宮の、岡 賢一代表理事。
 農事組合法人二之宮は123名の生産者で構成され、小麦を約67ヘクタール栽培しています。米、麦の二毛作をメインにたまねぎ、長ねぎ、キャベツを栽培。集落で営農組合を組織することによって、年間の作業や管理体制が確立され、担い手確保や品質向上への取り組みなどが実現できます。
「よい小麦を育てるには、堆肥などを使った土づくり、そして麦踏みで強い茎をつくることが大切」と、岡代表理事。
 10月に米の収穫が終わると、小麦の土づくりなどの準備をし、11月中旬から品種ごとに時期をずらして種まきをします。
「12月下旬頃にでき始める幼穂(ようすい)をトラクターのローラーで踏むと、茎の分けつが促進されて穂数が増え、冬場の霜柱に負けない耐寒力のある強い麦になります」と話す岡代表理事。その後も2月、3月上旬と、麦踏みを重ね、大きくて倒伏しない丈夫な麦を育てます。

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 農事組合法人二之宮では、GPS搭載のトラクターや自前のドローンでの農薬散布、モバイルシステムを使った作業データの蓄積など、先進技術を使ったスマート農業も積極的に導入を進めています。
「収穫量、水分量、タンパク含有量などをデータ化できる収量コンバインを導入して、翌年以降の土づくりや栽培管理に活用しています」とのこと。
 パンの需要が増えているため、パン用の小麦“ゆめかおり”の栽培も増やしていますが、「うどんやまんじゅうなどを作り、日常的に食べていた食文化を残していきたい。手作りのうどんはもちもちしておいしいです」と、岡代表理事。
 うどん作りは生地を踏んでコシを出すことが大切。国産小麦を使って、自家製手打ちうどんを楽しんでみてはいかがですか?

(取材:2022年6月中旬)

●JA前橋市
【小麦】生産概要
生産者:70名(うち農事組合法人37軒)
栽培面積:約1197ヘクタール
出荷量:約5615トン(2022年実績)

「良質の国産小麦をより多くの方にお届けしたい」と、JA前橋市販売部農産販売課の金子賢次課長

2023.05更新

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