【山形県寒河江市】

ビッグな新品種 やまがた紅王べにおう

文◎編集部 撮影◎磯野博正

口に入れると甘くてジューシーな果汁が広がるさくらんぼ。
「赤い宝石」とも例えられる人気者です。
2023年、さくらんぼの生産量全国一を誇る山形県で、新品種「やまがた紅王」がデビューしました。
一粒のサイズが500円玉より大きく、まさに「王」を冠するにふさわしい姿。
佐藤錦、紅秀峰に並ぶブランド化を目指し、2018年から山形県下で栽培に取り組んでいます。
産地のひとつ、JAさがえ西村山を訪ねました。

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名乗れるのは2L以上の大玉のみ

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「やまがた紅王」の栽培に挑む土田真澄さんと土田直子さん親子
 山形県のほぼ中央に位置し、最上川と寒河江川が町を包むように流れる寒河江市。「やまがた紅王」は、1997年から寒河江市の旧 県園芸試験場(現 県農業総合研究センター園芸農業研究所)が20年以上の歳月をかけて開発。「紅さやか」と「レーニア」の交雑種に、大玉の「紅秀峰」を交配して育成され、名称募集で寄せられた約1万5000件の中から「さくらんぼの王様の風格と親しみやすさを兼ね備えた名前」としてつけられました。「着色50%以上で2L(直径2.5センチ)以上という厳しい出荷規格があります。標準で3~4Lと大玉で食べ応えがある点が魅力です。少し酸味がありますが後から強い甘みを感じるので、酸味と甘みのある“佐藤錦”や、酸味がなく甘味が強い“紅秀峰”とはまた違った味わいが楽しめます」とJAさがえ西村山広報担当推進役の伊藤芳明さん。
 山形県では「佐藤錦」「紅秀峰」に続く第三のブランドとするべく、果樹で初となる生産者登録制度を導入。2018年から苗木を配布して栽培を始め、2023年から本格出荷となりました。
 「JAさがえ西村山は山形県内でも“紅秀峰”の産地として技術力に定評があるので、大玉の“やまがた紅王”も今後広げていきたいです。中生種の「佐藤錦」と晩生種の「紅秀峰」の間、6月下旬から7月上旬に収穫できる「やまがた紅王」は中継ぎ役としても期待されています」と、伊藤さん。
 「佐藤錦」と比べて果肉がしっかりしていて輸送しやすいことから輸出を視野に入れ、中国や韓国などアジア各国でも商標登録を出願しています。

収穫量増大へ向け栽培研究

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 約130アールの土地で、「佐藤錦」約100本、「紅秀峰」約60本、「やまがた紅王」15本を栽培している生産者の土田真澄さん。5年前に、代々続く農家を継いだ若手生産者です。「大学卒業後は農業資材の会社で働いていました。しかし、広いさくらんぼ園を自分の代で止めてしまうのは惜しいと思ったんです」と、土田さん。「やまがた紅王」は他の品種と比べて実がしっかりとして日持ちがするため、品質を損なわずに輸送できることから、日本各地はもちろん、海外でも高い評価を得られると期待されています。将来の可能性にチャレンジしてみたいと、苗木の配布が始まった2018年に生産者登録を行い、栽培を始めました。
 「3年目辺りから大きな実がつくようになってきました。まだ若木で結実が少なめですが、10年を経て成木となれば、収穫量が見込めるようになります。それまでに樹形を作業効率のよいY字仕立てにするなど栽培環境を確立させたいですね」と、今後の見通しを話す土田さん。芽かきのバランスや結実性を高める方法、着色具合など、質の高いさくらんぼが収穫できるようJAでの勉強会にも積極的に参加しています。
 収穫は、実がパリッとおいしい状態で出荷するため短期決戦。「朝の5時から8時まで摘み取り、作業場で10時頃まで一粒一粒大きさや色、形などを選別し、箱詰めして集出荷場に16時までに出荷します。ピーク時は19時までの夜間出荷をすることもあります」。

 
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作業場では「佐藤錦」の選別中。「やまがた紅王」も同様に、傷果など一粒ずつチェックし、サイズ別に詰めていきます
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500円玉よりも大きいサイズ。規格表に合わせて2.5cmの2Lから、3.1cmの4Lに分けます

 収穫が終わると来年に向けての準備です。夏は草取りやダニなどの防除、木の剪定など、春は遅霜で蕾を枯死させないための作業や授粉、実が大きく膨らむ時期には水やりや雨除けの設置と、まさに“子育てと同じ”ように手間ひまをかけて育てます。そこにやりがいを感じると話す土田さん。
 「栽培は試行錯誤の連続です。でも手をかければかけた分、形になることに面白さを感じます。地域に同じ年代の若手生産者がいて情報交換できる点も心強いです」。
 山形県期待の新品種「やまがた紅王」。2022年のプレデビュー販売当日はJAの直売所に開店前から長蛇の列ができるなど、期待の高さがうかがえました。食べ応えのある大きさ、甘味と酸味のバランスなど、一度試しておいしさを実感してください。

(取材:2022年6月下旬)

●山形県下(JAさがえ西村山含む)
【さくらんぼ(やまがた紅王)】生産概要
生産者:約2706名
栽培面積:約150ヘクタール
出荷量:約20トン(2023年出荷見込み)
主な出荷先:関東、関西など

「大玉なので、果肉が多く満足感があります」と、JAさがえ西村山の伊藤芳明さん

2023.06更新

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