【山梨県西八代郡市川三郷町】

驚きの長さ、香りと甘みが際立つ 大塚にんじん

文◎編集部 撮影◎磯野博正

「大塚にんじん」は、甲府盆地の南に位置し、八ヶ岳を見渡す丘陵地にある市川三郷町大塚地区で古くから生産されている伝統野菜です。
11月下旬から1月に出回り、1mを超えるものもある圧倒的な長さを誇ります。
一時期は生産者が減ったものの、地域の特産を見直す機運により、現在は再び生産者が増えてきています。
地元で親しまれ、お正月料理に好まれる「大塚にんじん」。
その魅力に迫るべく、JA山梨みらいを訪ねました。

肥沃な大地の恵みで長く成長

img_01
「昔から親しまれてきた伝統野菜なので、次の世代にも受け継がれていってほしい」と、大塚にんじん部会の岩下七郎部会長
 大塚にんじんは、昭和30年代まで全国で広く生産されていた「国分鮮紅大長(こくぶせんこうおおなが)」という、根の長さが50cm以上になる長根種の西洋にんじんです。色が鮮やかで肉質は緻密、独特の香りと強い甘みがあり、現在の一般的な五寸にんじんよりも濃い味わいが特徴です。
「市川三郷町大塚地区は、甲州の方言で『のっぷい(のっぺらぼう)』と呼ばれる八ヶ岳や茅ヶ岳などの火山灰が堆積した土地です。ミネラルが豊富で石や岩がほとんどなく根の成長を妨げないため、昔からごぼうやにんじんなどの根菜類の栽培が盛んに行われてきました。普通は50〜60cmが標準サイズなのですが、肥沃でやわらかなのっぷいで大きく成長し、120cmを超えるものもあります」と、JA山梨みらい大塚経済センター伊藤天紀(たかのり)さん。
 生育期間は一般的なにんじんの場合は約4ヵ月、大塚にんじんは約半年もかかります。6月中旬に種をまき、11月下旬に収穫します。
「大塚にんじんの栽培は種まきが一番大変です。種まき直後は水分が十分にないと、発芽しなかったり、発芽してもすぐに枯れてしまったりします。土壌の水はけがよくて保水力が弱いため、梅雨の降雨を利用して発芽を促すようにしています」と話すのは、生産者の岩下七郎さん。岩下さんは20年前から大塚にんじんの栽培を行うベテラン生産者。現在は約30アールの畑を手掛け、大塚にんじん部会の部会長を務めています。空梅雨のときは一度で発芽せずにまき直すこともあり、天候の見極めが大切だといいます。7〜10日くらいで発芽すると、次は間引き作業です。
「だいたい5cm前後の間隔で間引きますが、地区内でも少しずつ土壌成分が違います。太く育てたいときは広く、細めに育てたいときは狭くと、畑ごとの微調整も必要です」と岩下部会長。しっかり根付けば一安心。収穫時期まで手作業での除草作業や、周囲を柵で囲って獣害対策を行うなど、こまめに生育管理を行います。

1本ずつ手で丁寧に抜き取り作業

  

img_04
甲府市街地を望む見晴らしの良い丘陵地で作られています
 甲府の街と八ヶ岳を見渡せる丘に大塚にんじんの畑が広がっています。収穫は、品質を揃えるために部会で例年11月下旬に解禁日を決めて行われます。
「この辺りは11月下旬になると霜が降り、にんじんが寒さから身を守るために糖分を蓄えるようになります。それで甘みがのった高品質なものが収穫できます」と、岩下部会長。

 

img_02
img_03
ショベルカーで畝の横の土を掘り上げ、根を露わにさせて、1本ずつ手で取り出します
 まず、地上に生い茂った葉を刈り取り、ショベルカーで畝の横を1.5mほど掘り上げて、側溝(そっこう)をつくっていきます。側溝を覗くと、きれいに伸びた大塚にんじんが並んでいました。
「堀り棒で周りの土を崩しながら、1本1本折らないよう丁寧に手で抜き取っていきます」と話す、岩下部会長。収穫した大塚にんじんは、曲がりなどをチェックして洗浄し、4〜5本ずつ束ねて出荷します。毎年12月中旬には地区内の直売所で即売会も開かれ、県内外の人で賑わうそうです。

img_05
【左】鮮度を保つため、予冷庫で保管されます
【右】大塚にんじん専用の長い化粧箱。長さ60cm以上、重さ400g以上のものを選別して箱詰めします
 岩下部会長はさらなる栽培面積の拡大を目指し、栽培ノウハウをまとめたマニュアルの作成を部会で進めています。新規就農者がチャレンジしやすいよう環境を整備したいと意気込みを語ってくれました。
「いろいろな地域の人に大塚にんじんを知ってもらえるよう広めていきたいです」と話す、JA山梨みらいの伊藤さん。町役場や県の農務事務所など、関係機関とも連携を進めていくといいます。
 岩下部会長のおすすめの食べ方は、シャキシャキとした食感が楽しめる松前漬けや野菜スティック。揚げると甘みが増すので、かき揚げなどもおいしいとのこと。また、油揚げやきのこと炊いた「大塚にんじん飯」は、郷土の味として学校給食にも採用されています。お正月料理の紅白なますや煮しめにも活躍間違いなし。地区内の直売所やJAタウン等で販売していますので、ぜひ食べてみてください。

(取材:2022年12月上旬)

●JA山梨みらい
【大塚にんじん】生産概要
生産者:約50名
栽培面積:約2ヘクタール
出荷量:約5600kg(2021年実績)
主な出荷先:山梨県内

「大塚にんじんの際立つ長さはもちろんですが、β-カロテンやカリウムなどの豊富な栄養素も注目されています。多くの人に知ってもらいたいです」と、JA山梨みらい大塚経済センターの伊藤天紀さん

2023.11更新

閲覧数ランキング