肥沃な大地の恵みで長く成長
「市川三郷町大塚地区は、甲州の方言で『のっぷい(のっぺらぼう)』と呼ばれる八ヶ岳や茅ヶ岳などの火山灰が堆積した土地です。ミネラルが豊富で石や岩がほとんどなく根の成長を妨げないため、昔からごぼうやにんじんなどの根菜類の栽培が盛んに行われてきました。普通は50〜60cmが標準サイズなのですが、肥沃でやわらかなのっぷいで大きく成長し、120cmを超えるものもあります」と、JA山梨みらい大塚経済センター伊藤天紀(たかのり)さん。
生育期間は一般的なにんじんの場合は約4ヵ月、大塚にんじんは約半年もかかります。6月中旬に種をまき、11月下旬に収穫します。
「大塚にんじんの栽培は種まきが一番大変です。種まき直後は水分が十分にないと、発芽しなかったり、発芽してもすぐに枯れてしまったりします。土壌の水はけがよくて保水力が弱いため、梅雨の降雨を利用して発芽を促すようにしています」と話すのは、生産者の岩下七郎さん。岩下さんは20年前から大塚にんじんの栽培を行うベテラン生産者。現在は約30アールの畑を手掛け、大塚にんじん部会の部会長を務めています。空梅雨のときは一度で発芽せずにまき直すこともあり、天候の見極めが大切だといいます。7〜10日くらいで発芽すると、次は間引き作業です。
「だいたい5cm前後の間隔で間引きますが、地区内でも少しずつ土壌成分が違います。太く育てたいときは広く、細めに育てたいときは狭くと、畑ごとの微調整も必要です」と岩下部会長。しっかり根付けば一安心。収穫時期まで手作業での除草作業や、周囲を柵で囲って獣害対策を行うなど、こまめに生育管理を行います。
1本ずつ手で丁寧に抜き取り作業
「この辺りは11月下旬になると霜が降り、にんじんが寒さから身を守るために糖分を蓄えるようになります。それで甘みがのった高品質なものが収穫できます」と、岩下部会長。
「堀り棒で周りの土を崩しながら、1本1本折らないよう丁寧に手で抜き取っていきます」と話す、岩下部会長。収穫した大塚にんじんは、曲がりなどをチェックして洗浄し、4〜5本ずつ束ねて出荷します。毎年12月中旬には地区内の直売所で即売会も開かれ、県内外の人で賑わうそうです。
【右】大塚にんじん専用の長い化粧箱。長さ60cm以上、重さ400g以上のものを選別して箱詰めします
「いろいろな地域の人に大塚にんじんを知ってもらえるよう広めていきたいです」と話す、JA山梨みらいの伊藤さん。町役場や県の農務事務所など、関係機関とも連携を進めていくといいます。
岩下部会長のおすすめの食べ方は、シャキシャキとした食感が楽しめる松前漬けや野菜スティック。揚げると甘みが増すので、かき揚げなどもおいしいとのこと。また、油揚げやきのこと炊いた「大塚にんじん飯」は、郷土の味として学校給食にも採用されています。お正月料理の紅白なますや煮しめにも活躍間違いなし。地区内の直売所やJAタウン等で販売していますので、ぜひ食べてみてください。
(取材:2022年12月上旬)
●JA山梨みらい
【大塚にんじん】生産概要
生産者:約50名
栽培面積:約2ヘクタール
出荷量:約5600kg(2021年実績)
主な出荷先:山梨県内
