【東京都八丈島八丈町】

樹上完熟でビッグサイズ 八丈はちじょうフルーツレモン

撮影◎磯野博正

レモンといえば、酸味が料理の味を引き立てたり、お菓子のアクセントになったり、付け合わせとして彩りを添えるなど、脇役のイメージのある果実です。
ところが、伊豆諸島南部の八丈島で栽培されている「八丈フルーツレモン」は、グレープフルーツくらいの大きさで存在感は主役級。
樹上完熟ならではのまろやかな酸味が食べやすく、注目度が高まっています。独自の栽培方法を確立し、安定生産に取り組むJA八丈島を訪ねました。

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ハウス栽培で大きく育て特産化

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「日々ハウスの中を丁寧に見回って、日当たり、水分量、防除などをこまめに行い、より大きく高品質なレモンを目指しています」と、八丈島レモン生産出荷組合の奥山正孝組合長
 八丈島は、東京から南に約287kmの海上にある火山島です。羽田空港から約1時間、八丈島空港に降り立つと、2月にもかかわらず暖かな南風と揺れるヤシの木に迎えられました。島でのレモン栽培は、1940(昭和15)年に菊池雄二氏によって北マリアナ諸島にあるテニアン島から苗木が持ち込まれたことに端を発します。
「菊池レモンと呼ばれ、島内に栽培が広がりました。でも、雨が多く、風も強く、台風の襲来が頻繁な島での栽培は難しく、生産量が安定しないことが課題でした。2010年にハウス栽培でレモンを完熟させる新しい栽培技術を開発し、2014年から『八丈フルーツレモン』のブランドで出荷しています」と、JA八丈島経済指導部の淺沼晃輔さん。
 年間平均気温は18℃。温暖な気候を生かし、特産のパッションフルーツや明日葉(あしたば)などとともに、花き・観葉植物の生産も行われています。その栽培で使っていたハウスなどを八丈フルーツレモンに切り替えながら、徐々に生産量を増やしてきました。
「レモンは、寒さに弱いため八丈島の温暖な気候は栽培に適しており、ハウスの導入により風の影響が抑えられました」と淺沼さん。
 菊池レモンは、レモンとオレンジの交雑から生まれた「マイヤーレモン」と同じ系統の品種と推定されています。酸味がマイルドで香りがあり、サイズが大きいのが特徴です。「大きいものは400g以上ありますよ」と、淺沼さんが持たせてくれました。普通のレモンは卵大くらいの大きさですが、グレープフルーツくらいは優にありそうです。「これがレモン?」とビックリ! ずっしりと重みがあります。

摘果で数を絞り、丁寧に磨いて出荷

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【上・左下】お尻の先まで色づいていることを確認し、傷つけないよう気を付けながらハサミで収穫します
【右下】ヤシの木の街路樹が続く道路沿いに、レモン栽培のハウスが連なります

 収穫は、秋から冬に向かう寒さで全体がきれいなレモンイエローにじっくりと色づく、12月中旬から2月いっぱいに行われます。収穫中のハウスを訪れると、レモンの重さで枝がしなり、アーチ状になっています。
「レモンは実をたくさんつけるので、摘果が欠かせません。栽培当初は試行錯誤しましたが、今は樹1本当たり150個程度に調整し、1個当たり400g以上の大きな実になるよう工夫しています。実の重みで地面につかないよう、収穫前は枝を紐で吊り上げます」。そう話してくれたのは、八丈島レモン生産出荷組合の奥山正孝組合長。10年前にそれまで手掛けていたパッションフルーツのハウスの半分をレモンに切り替えて栽培を始めました。
「露地に比べてハウスでは樹が大きく成長し、高さが数メートルにもなります。茂り過ぎると日当たりが悪くなるので、3月頃に大胆に剪定するのですが、すぐに枝が4~5本伸びてきて、翌年には実がなりますね」と、奥山組合長は話します。
 摘み取りは夜明けから日没の16時半頃まで、1日60~70kgほど。「キズの有無などの外観と重さの2つの基準で等級分けします。出荷・調製作業は、まず実を一つひとつ洗った後、タオルで磨いて艶を出し、重さを量って選別していきます。すべて手作業なので、大変です」と、奥山組合長。200kgくらいまとまった段階で、順次出荷します。

 

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実についた汚れを一つずつスポンジで洗います
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地元の高校生と協力して作成したロゴマークの入った箱に丁寧に梱包して出荷します
「樹上完熟ならではの実の大きさと質の高さでアピールしていきたいですね」と、淺沼さんは今後の展望を話してくれました。
 樹になったまま完熟させる八丈フルーツレモンは、果皮に含まれる糖分が増えてほんのり甘くなり、苦み成分を感じにくくなります。産地では、カットレモンを丸ごとかじりながら焼酎を飲んだり、皮ごとスライスしてサラダなどに加えたり、丸ごと使ってジャムやデザートにしたりと、さまざまな料理でレモンが大活躍しています。さわやかな香りと、まろやかな酸味、ビッグサイズで使い勝手のいい八丈フルーツレモンをぜひお楽しみください。

(取材:2023年2月上旬)

●JA八丈島
【八丈フルーツレモン】生産概要
生産者:24名
栽培面積:約5ヘクタール(2022年実績)
出荷量:約10トン(2022年実績)
主な出荷先:JAタウンなど
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「まろやかな酸味でいろいろな食べ方で楽しめます。たくさんの人に知ってもらいたいです」と、JA八丈島の淺沼晃輔さん

2024.01更新

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