今こそ考えよう【日本の食料安全保障】

国産を選ぼう
〜今の選択が未来の選択肢につながる〜

ウクライナ紛争の勃発など世界的な食料不安を背景に、最近、食料安全保障というワードがニュースで出てくるようになりました。
私たちの食生活を守るために、私たち自身ができることはないでしょうか。
東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授にお話を聞きました。

── 今の食や農業の状況をどのようにみていますか?
鈴木 新型コロナによる物流の停滞、中国の需要増、異常気象による不作、そしてウクライナ紛争の勃発で、今、世界中で食料や生産資材の争奪戦が非常に激しくなってきています。
 その要因は三つあると考えます。一つ目は、ロシアのように食料を自国権益の武器としている、二つ目は、世界有数の農業国であるウクライナが紛争で生産・出荷不能、三つ目は、小麦の生産量世界2位のインドなど、約30ヵ国の農作物輸出国が自国民を守るために輸出を止めていることです。
 国内の農家は肥料代2倍、飼料代2倍、燃料代3割高と、生産コストが跳ね上がる一方、国産農畜産物の価格は安いままという危機的状況に直面しています。価格転嫁できず廃業に追い込まれる農家も出てきています。

── 直近のわが国の食料自給率が38%と発表されました。
鈴木 生産に必要な資材の自給率を考えると、実際にはもっと低いです。野菜のタネは1割くらいしか国内で作っていません。野菜の自給率は80%と言われますが、タネが手に入らなければ8%です。それを考えると、実質的な食料自給率は1割くらいかもしれません。海外からモノが入ってこなくなったら自分たちの命を守れない事実を、今こそ認識しなければいけないと思います。

── まさしく食料の危機に直面しているのですね。
鈴木 価格が上がったとはいえ、スーパーに行けばまだ食品が並んでいるので消費者は実感しづらいかもしれません。しかし、お金を出せば自由に輸入できることを前提にした食の安全保障はもう破綻したと考えるべきです。日本の農家も今、存続の危機に立たされています。生産者、食に関わる組織や企業、消費者に至るまで一体となって国内の生産体制を守らなければいけない状況にきていると思います。

── 生産者を助け、将来の食料を確保し続けるには、どう行動すればいいでしょうか?
鈴木 安いからと輸入品ばかりに頼っていたらいざというときに命を守れません。国産農畜産物をもっと消費して支えるとか、再生産可能な価格で支えるといった具体的行動を起こさないといけないと思います。つまり、消費者が今やるべきことは自分が買うもの、外食や中食、加工品も含めて国産を積極的に選択するということです。商品の販売ルートをしっかりと確認して、国産を使った食べ物を選択していく。
 安全保障は武器よりまず食料を考えるべきです。国内の生産コストが少々高いように思えても、普段からみんなで支えて危機に備えることが安全保障につながります。「命を守るためのコスト」をいかに自覚してしっかり負担するかが、とても重要です。

プロフィール

鈴木宣弘(すずき のぶひろ)
東京大学大学院農学生命科学研究科
農学国際専攻 国際開発環境学講座
国際環境経済学研究室 教授

1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年より東京大学教授。2022年4月、一般財団法人「食料安全保障推進財団」理事長。専門は農業経済学、国際貿易論。

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2023.02更新

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